【読書】アリステア・マクリーン『女王陛下のユリシーズ号』ハヤカワ文庫NV

 アリステア・マクリーン女王陛下のユリシーズ号ハヤカワ文庫NVを読了。
 読書記録をチェックすると1979年、1985年、2002年に読んでいる。たぶんそれ以前にも読んでいるので、おそらくは今回が5回目の読書ということになるようだ。
 前回読んだ時の感想を引用しておこう。

 なんど読んでも泣けてしまう。なんど同じ場所で泣けば気が済むのか。ヴァレリー艦長が「きみたちを忘れはしない。約束する、われわれはきみたちを忘れない」、そう言うだけで、滂沱の涙が流れてきてしまう。ラルストンの悲運「マイケル・ラルストン艦長です。わたしの父でした」に、泣かされてしまう。カポック・キットのエピソード「だいなしだ。だいなしにしてくれた」、ピーターセンのエピソード「ピーターセンが大変申しわけないといってたと、艦長にいってください」、ライリーのエピソード「本艦でおれに目をかけてくれた野郎は、機関長だけです」、マクウェイターのエピソード「あ、なんだ。出ろ、ね。はい。そういったんだと思った」…ありとあらゆる登場人物、ユリシーズ号の乗組員、神が一艦長にさずけた最高の乗組員のエピソードが、怒涛のごとくページをめくる僕にむかって襲いかかってくる。そしてヴァレリーだ。ヴァレリー艦長だ。ああ…。
 この作品を書いた時のマクリーンには、冒険小説の神が降りてきていたとしか思えない。名作とは、まさにこういう作品のことをいうのであろう。

 そして今回もほぼ同様の感想で、この作品を書いた時のマクリーンの筆致は神がかっているとしか言いようがない。さらには、村上博基の訳文の素晴らしさも、神がかっていると言っていいだろう。
 が、今回初めて、前半を読むのに時間がかかってしまった。活字が小さくて、目が疲れてしまうために、集中力が持続しないのだ。歳をとるというのはこういうことなのかと、しみじみと痛感させられてしまった。そして、前半の読書にもたついてしまうと、怒濤の展開となる後半の盛り上がりが、かつてほどには感じられなくなってしまうのだ。ひとりひとりのキャラクターが、以前ほど力強く迫ってこなくなってしまうのだ。
 歳とってリタイアして時間ができたら読書三昧だとか思っていたら、とんでもない。読書は若いうちにたっぷりしておいた方がいい。本書を読んで凄絶ともいうべき展開に圧倒され、その容赦のない展開に涙を流そうと思ったら、ヴァレリー艦長の「すまなく思っていることをつたえてほしい」というセリフに打ちのめされようと思ったら、ぜひとも体力のある若いうちに読んでほしい。