★西村健『激震』講談社

 西村健『激震』講談社を読了。


 阪神淡路大震災が起き、地下鉄サリン事件が発生した1995年というとんでもない年を、雑誌記者を主人公として描いたフィクション。著者本人が雑誌記者としてその場にいたのであるから、実にリアルで臨場感が半端ない。
 なかなか派手な舞台設定でありながら、センセーショナルな描写に走ることなく、じっくりと抑制された筆致で描かれている。デビュー当時の派手な作風はすっかり影を潜めていて、しっかり大人の読み物となっているではないか。しかし、いささか地味すぎないか。この題材を派手な筆致で描いてはいけないという、著者なりの判断があったのだろうとは思うが、もう少しエモーショナルな盛り上がりが欲しいと思わないでもない。
 それにしても、あらためて小説として1995年を振り返って「なんて年だったんだ!」とあきれかえる。そのとんでもない年を、1件の殺人事件を絡めて描いているのだが、その容疑者となる女性が描写がみごとで、実に印象的だ。
 そして、この1995年以降も、東日本大震災があり、コロナがあり、安倍晋三暗殺があり、ロシアとウクライナの戦争があり、ずっととんでもない状況が続いている。その中で、雑誌記者たちはずっと翻弄されてきたのだろうな、なんとことも思ってしまう。