★フェルディナント・フォン・シーラッハ『犯罪』創元推理文庫

 フェルディナント・フォン・シーラッハ『犯罪』創元推理文庫を読了。
 実に奇妙な味わいの短篇が11本収録されている。いずれも、「犯罪」を題材にした作品でありながら、人間というものの不可思議さ、奥深さを乾いたタッチで描いている。どの作品も、犯罪の経緯を三人称で描いていって、途中から弁護士である「私」が登場してくるのだが、別に「私」が事件を解決したりするわけではない。不可思議な事件に遭遇した担当弁護士として、事件を紹介する立場を担っているにすぎない。
 中には、即座には意味の分からない終わり方をする作品もある。自分の解釈に自信を持てない作品もある。どうにも一筋縄ではいかない作品なのだ。それでいて、シンプルに運命の素晴らしさを描く作品があったりもして、バラエティにも富んでいる。
 過剰な描写を排したストイックな文体で、翻訳の素晴らしさもあって、非常に読みやすく飽きさせない。