【映画】モガディシュ 脱出までの14日間

 韓国映画モガディシュ 脱出までの14日間』を観る。
 1980年代、韓国は国連への加盟が承認されていなかった。そのため、国連で最多の投票権を持つアフリカ諸国に働きかけ、ソマリアの首都モガディシュにも外交官を派遣していた。そこでは、同じく国連加盟を求めて北朝鮮が政府の支持を求めて奔走していた。妨害工作や情報操作でしのぎを削る韓国と北朝鮮。ところが、1991年、ソマリア内戦が勃発し、両国の大使館員とその家族たちは孤立を余儀なくされてしまう。街には銃弾が雨あられと飛びかい、空港は封鎖され、通信網も断絶し、自国に助けを求めることもできない状況。彼らは、生きて脱出するために手を組み、助かる一縷の望みにすべてを託して、4台の車で銃弾の中に乗り出していくのだった!
 いやあ、凄かった。政府軍と反乱軍の激突であっという間に街は廃墟と化し、地獄絵が展開されていく。その描写のリアルなこと。そこでは、人間の命など、紙よりも軽い存在でしかなかった。このあたりの描写が実に怖いのだ。
 行き場をなくした北朝鮮の大使館員たちが韓国大使館に助けを求め、韓国大使館側も人道的観点から受け入れはしたものの、長年にわたる歴史ゆえにお互いに疑心暗鬼をぬぐいさることはできない。その、ギクシャクした関係の描写に始まり、命がけの脱出行を通じてしだいに心を通い合わせていくという展開は、それこそお約束ではあっても、キャラクター描写がしっかりしているので、実に説得力がある。もっとも、心を通い合わせていくといっても、お互いにニコニコと手を握り合ったりするような露骨なシーンは1箇所たりともない。ほんのさりげない描写で、描いているだけなのだ。このあたりの演出も実にみごとだ。キャラクターがしっかり生きているからこそ、説得力がある。
 そして、脱出行の迫力が凄い。4台の車に襲いかかる銃弾、銃弾、また銃弾。思わず、息を止めて画面に釘付けになってしまった。
 監督のインタビューを読むと、可能な限りグリーンバックによる合成を排除し、原則として現地で撮影することにこだわったのだという。なるほど、それゆえのリアリティであり、迫力というわけだ。
 しかし、よくまあ全面海外ロケの作品で、これだけスケールの大きな作品を撮ったものだと感心してしまう。あの地獄と化した街を作り上げるだけでも、相当な手間がかかったはず。なにしろ、車で走り続けるのだから、一箇所だけセットを作ればいいというわけではないだろう。実際にはモロッコで撮影したらしいのだけれど、韓国映画界の底力にはいまさらのように驚かされる。
 監督はリュ・スンワン。韓国の映画監督の名前はほとんど知らないのだけれど、このリュ・スンワンの名前だけはしっかり覚えている。『相棒 シティ・オブ・バイオレンス』『血も涙もなく』といった作品の、ザラリとした肌触りのハードボイルド映画のインパクトが強かった。本作を見終えてから監督がリュ・スンワンと知り、なるほどと納得させられた。
 ところで、サブタイトルに「脱出までの14日間」とあるのだけれど、この映画って14日間の物語だったの? 内戦勃発から脱出まで14日もあったように思えなかったのだけれど。