★ヘルハウス

 リチャード・マシスン原作のホラー映画『ヘルハウス』を観る。

 1973年の作品。もう半世紀前の作品だ。『エクソシスト』が社会的問題となるほどの大ヒットを飛ばし、空前のオカルト映画ブームが巻き起こった1974年に、この作品も日本で公開された。僕は、ちょうど創刊されたばかりの「GORO」に載っていた試写会の知らせに応募してこの作品を観ている。

 実に久しぶりにこの作品を観たわけだけれど、やはり傑作であると思った。超心理学と科学とが一体となって心霊現象に挑むという原作の素晴らしさが成功の最大の要因なわけだけれど、その原作のよさが実に見事に映像化されている。派手な描写、スピーディな展開を避けた、抑制された演出がいかにもな雰囲気をかもしだしている。限られた舞台、限られた登場人物という設定も、成功に結びついているのだろう。

 監督はジョン・ハフピーター・フォンダスーザン・ジョージ主演の『ダーティ・メリー クレイジー・ラリー』、マーク・レスター主演の『小さな目撃者』などの監督だ。
 主演は、ロディ・マクドウォール、ゲイル・ハニカット、クライヴ・レヴィル、パメラ・フランクリン。当然ながら、この映画でパメラ・フランクリンに惚れ込んだわけだけれど、『ヘルハウス』以降はテレビを主な活動の場としていたようで、ふたたび彼女の姿をスクリーンで観ることはなかった。

★樋口明雄『南アルプス山岳救助隊K-9 それぞれの山』徳間文庫

 樋口明雄南アルプス山岳救助隊K-9 それぞれの山』徳間文庫を読了。


 かつて北岳で事件に遭遇したトラウマを克服すべく再び北岳にやってきたアイドル歌手と、すでに頂点を過ぎてしまったベテラン大衆小説作家が、ひょんなことから一緒に北岳の頂上をめざすことになる「リタイア」、ひとり息子が北岳で亡くなったことから山岳救助隊を逆恨みした父親のとった行動を描く「孤高の果て」の中編2篇を収録。
 この長さが実にほどよくて、心地よく読み終えてしまう。スケールの大きな事件を描くにはそれなりの長さが必要になるけれど、同じ舞台、同じメンバーで毎度毎度スケールの大きな事件に巻き込まれるというのもおかしなものなので、このシリーズにはこれぐらいの事件がいいのではないだろうか。このテイストでコンスタントに読ませてくれれば、こんなにしあわせなことはない(もちろん、油断したところにドンとスケールのでかい作品がとびこんできてくれれば、さらに喜び倍増となるのだけれど)。本当に文句なしの良質のエンターテインメントなので、正直、徳間文庫の看板シリーズになってもいいくらいだと思っている。頑張れ、徳間文庫の担当者!
 「リタイヤ」でちょっといいなと思ったのは、アイドルが山小屋の食堂で食事をしている時に、まわりが彼女に気づきはじめて視線が集まったところで、さりげなく山小屋のスタッフが「一緒のテーブルで食事してもいいですか」とやってくるシーン。なんてことのないシーンなのだけれど、こういう気遣いをさらっとかける小説家は信用してもいいと思うぞ。
 「孤高の果て」の方はオールスターキャストが嬉しい作品だ。いつもの南アルプス山岳救助隊のメンバーだけではなく、阿佐ヶ谷署の大柴、真鍋のコンビが登場し、さらにはWLP(野生鳥獣保全管理センター)も登場してくるのである。これは嬉しい。野生鳥獣保全管理センターの七倉を主人公とするシリーズは『約束の地』『許されざるもの』の2冊で中断しているものの、この2冊は本当に夢中になって読んでしまった作品なのだ。まだまだ続篇を読みたいシリーズなのである。そして、ラストのお約束のセリフで泣けてしまう。いや、そこでそのセリフを投入するって、ずるいぞ。

 というわけで、またしてもあっという間に読み終えてしまった。読み終えるなり、次が待ち遠しくてしかたがない。

★バタフライ・ラヴァーズ(2008年)

 香港映画『バタフライ・ラヴァーズ』を観る。


 中国版ロミオとジュリエットとして有名なストーリーで、過去に何度も映画化されている。1994年にはツイ・ハーク監督がニッキー・ウー&チャーリー・ヤン主演で撮っていたりもするが、今回観たのはジングル・マー監督がウーズン&シャーリー・チョイ主演で撮った2008年の作品。アクション監督をチン・シウトンが担当しているので、アクションは見ごたえたっぷり。なおかつ、なんのてらいもない王道のメロドラマなのだ。
 そして、脇役に控えているのが熊欣欣に樊少皇に狄龍! いや、それって完全なアクション映画の布陣だからね。この顔ぶれでメロドラマを撮ってしまうというのだから、実に贅沢。
 ただし、情感たっぷりの場面がけっこう延々と続いたりするので、そういうのが苦手な人にはダメかもしれない。ジョニー・トーだって、ユン・ケイだって、アクション映画の中にむやみやたらとエモーショナルな映像を入れたりしていて、香港アクション映画にはお約束の要素ではあるのだけれどね。
 ちなみに、あのラストシーン、けっこうホラーだと思うのは自分だけだろうか。あれはちょっと無理があると思うぞ。

★スローターハウス5(映画)

 原作を読み終えた勢いでジョージ・ロイ・ヒル監督の映画『スローターハウス5』を観る。


 原作にかなり忠実に映画化されているものの、こうして観ると、原作になかったエピソードが映画版ではけっこう付け加えられていることがわかる。ビリーの妻が、ことあるごとに「あなたのために、今度こそ痩せてみせるわ」という台詞を繰り返すところなど、実にうまい改編だと思う。
 原作における過去も未来もすべて決まっていて、人間の自由意志によって変えることはできないという設定が、映画ではいささか中途半端な扱いに変えられている。それゆえ、ビリー・ピルグリムは飛行機に乗ってからその飛行機が墜落することを知り、「この飛行機は墜落する」と大騒ぎをするのだけれど、本来の設定では飛行機が墜落することは確定した未来のできごとであり、ビリーだってそのことをずっと知っていたし、そういうものだと思っているので大騒ぎするわけがないのである。そのあたりは、よりわかりやすくするために、脚本家としてはそうとう頭を悩ませたのではないだろうか。時間軸をあっちこっち飛ぶ物語なので、それをわかりやすくするにも、けっこう苦労しただろうと思う。
 結果、非常に優れた脚本に仕上がっていると感じた。
 それと、映像が美しい。空襲を受ける前のドレスデンの街並み、トラルファマドール星の光景などなど、なんとも魅力的だ。ラストシーンも完全に映画オリジナルの場面だけれど、感動的なまでに素晴らしい。
 そして、ヴァレリー・ペリンだよね。いま観ると「こんなにふっくらとした顔だったんだ」とビックリしてしまうのだけれど、初めて劇場で観た時には「なんと魅力的な女優なんだ」と惚れこんだものです。彼女の描写も原作ではけっこうあっさりしていたのだけれど、映画版ではそれなりに重要なキャラクターとして描かれていて、そこも映画版の好きなところ。
 結局、ジョージ・ロイ・ヒル監督は原作を換骨奪胎して、あくまでも自分の映画として仕上げたということなのでしょう。

 そして、小説と映画の両方を味わってみていまいちよくわからなかったのが、トラルファマドール星に拉致されたはずのビリーが、その後の人生を地球で過ごしているという描写と整合性がとれないのではという部分。いつトラルファマドール星から地球に帰ってきたのだろう?

★スローターハウス5(小説)

 カート・ヴォネガット・ジュニアスローターハウス5』ハヤカワ文庫SFを読了。


 映画の方を何度も観ているので、なんとなく映画の内容を活字で追体験しているような印象になってしまったが、小説は小説で面白かった。時間軸の中をあっちこっち飛びながらビリー・ピルグリムという人間の人生を描いていくのだけれど、あっちこっち話が飛ぶわりに頭の中で物語がこんがらがることもなく、ちゃんと時系列で読んでいるように先の展開が気になるという、なんとも不思議な小説だ。
 恐らく、ヴォネガットの小説は『タイタンの妖女』『猫のゆりかご』『プレイヤー・ピアノ』ぐらいしか読んでいないと思うし、なかなか読む機会もないのだけれど、やはり気になる作家であることは間違いない。そういうものだ。

★陰陽師:二つの世界

 Netflixにて中国映画陰陽師:二つの世界』を観る。


 妖怪と人間の混血という出自を持つ安倍晴明。彼は、かつて世に混乱をもたらした大妖怪「相柳」を封じ込めた鱗石を守るため、幾多の陰陽師が暮らす陰陽寮で仲間たちとともに修業をしていたが、その出自ゆえに陰陽尞を追放されてしまう。いまでは式神たちと穏やかに暮らしている晴明だが、何者かが陰陽尞に送り込んだ烏天狗によって鱗石が奪われ、偶然にもその鱗石を晴明の式神であるかまいたちが飲み込んでしまうことからかつての仲間たちから攻撃される立場となってしまう。
 一方、式神かまいたちが、皇室への献上品を護送する源博雅の一行を襲ったことがきっかけとなって、晴明は博雅と知り合っていた。そのため、博雅も鱗石をめぐるあらそいに巻き込まれていく。
 やがて、鱗石争奪の背後に潜んでいた存在が現れ、晴明たちを追い詰めていくのだが……。

 

 てっきり夢枕獏の『陰陽師』の映画化かと思ったのだが、スマートフォンアプリゲーム「陰陽師本格幻想RPG」を実写映画化したものとのこと。同じくNetflixで配信されている『陰陽師:とこしえの夢』の方は夢枕獏の『陰陽師』をベースとしているので、そちらとはまったく関係のない独立した作品となっている。
 で、これがけっこうよくできている。まず、CGをフルに使ったあやかしたちの造形や動きが実によく、こいつらがなんとも愛らしいのだ。最近の中国のCGのレベルは、本当にあなどれない。
 そして、バトルシーンも充実していて実に楽しい。中国時代アクションはこうでなくっちゃいけない。まあ、クライマックスのバトルなどは、ほとんど「ドラゴンボール」なんだけどね。
 あと、晴明を慕って追いかけ回す神楽というキャラクターを演じた女優さんがなかなか可愛かった。沈月(シェン・ユエ)という女優さんだそうだ。
 というわけで、なかなかのお勧め映画なのでありました。

★アイアン・スカイ ディレクターズ・カット版

 アマゾンプライムビデオにて『アイアン・スカイ ディレクターズ・カット版』を観る。


 月の裏側にナチスが基地を作っていて、そこから地球攻撃の宇宙船が大挙飛来してくるというもの。

 面白い映画と話題になっていたのは知っていたが、もっとチープな映画かと思っていた。ところが、いざ観てみたら、かなり本格的なSFX映画ではありませんか。さまざまなスタイルの宇宙船が戦闘を繰り広げるシーンなんて、『スター・ウォーズ』を彷彿させるレベルだぞ。ニューヨークの上空で繰り広げられる円盤と戦闘機の空中戦も迫力たっぷりだ。侮っていてゴメンナサイという気分だ。
 しかも、シビアなギャグやパロディがごっそり盛り込まれている。けっこう辛辣にアメリカの政権をおちょくって、これがなかなかのハイテンションで素晴らしい。いちばん受けたのがアメリカの宇宙船「USS ジョージ・W・ブッシュ号」。あと、ナチの巨大宇宙船がヒンデンブルグ型というセンスも大好きだ。
 調べてみると、フィンランド・ドイツ・オーストラリアの合作映画で、クラウドファンディングで資金を集めて作られたとのこと。そうでなければ、あそこまでアメリカ大統領をシビアに描くことはできないのか?

 続篇もあるので、これはぜひ観なければならないのだが、はたして本作と同程度のレベルに仕上がっているのだろうか。ちょっと不安ではあるのだけれど、ぜひ観よう。