【読書】今野敏『波濤の牙』ハルキ文庫

 今野敏『波濤の牙』ハルキ文庫を読了。
 台風が接近する茅ヶ崎沖で海難事故が発生し、海上保安庁特殊救難隊の惣領正らは救助に向かう。だが、救助した3人の男たちは、銃をとりだすと海難救助船「すがなみ」を制圧した。男たちは海上で受け取った大量のコカインを所持していたのだった。一方、連絡を絶った「すがなみ」の異変を察知した特殊救難隊の仲間たちは、惣領らを救うために荒れ狂う海へと乗り出していく。
 今野敏海洋冒険小説を書いていたとはまったく知らなかったのだけれど、本書を見つけた瞬間「これは絶対に面白い」と確信した。それだけ自分は、今野敏という作家を信頼している。そして、その信頼はまったく裏切られることはなかった。
 文庫で300ページに満たない長さの小説でありながら、台風に荒れる海の迫力、特殊救難隊のメンバーたちの心意気、海難救助の特殊スキル、特殊救難隊というきわめて特殊な職業に就く男を恋人に持った女性の苦悩など、多彩な要素がたっぷりと盛り込まれている。しかも、それらの要素が、しっかり過不足なく描かれ、きっちり効果をあげている。
 今野敏という作家、実にさまざまなジャンルの小説を書いているのだけれど、そのどれもが面白いという、本当に素晴らしい作家だ。個人的には、実在した武術家に題材をとった一連の小説がいちばん好きなのだけれど、この手の冒険小説をもっと書いてほしいものと思ってしまう。