
高野史緒『アンスピリチュアル』早川書房を読了。
巣鴨の治療院で受付のパートをしている祝子。ごくごく平凡な主婦なのだけれど、実は彼女には人のオーラが視えるという能力があった。しかし、オーラが視えたところで、なんの得にもならないと、祝子はその能力をスルーしていた。
ある日、祝子の働く治療院に月島優という若い理学療法士がやってくる。その若者を見た祝子は思わず息をのむ。なぜなら、彼のオーラがまったく視えなかったのだから。
優は不思議な能力を持っていた。とりたてて特殊な治療を施している風でもないのに、彼に担当してもらった患者はことごとく彼のファンになってしまうのだ。それゆえに治療院の中で疎まれ、歌舞伎町にある分院に追いやられるのだが。
そして、夫に浮気をされていた祝子は、優を追うように家を出て歌舞伎町の占いカフェで占い師として働くようになる。祝子にとっては、オーラで視えることを相手に伝えるだけのことなのだが、あっという間にカリスマ的な人気の占い師にまつりあげられてしまう。
歳の離れた優のことを愛しいと思いながらも、自分に自信の持てない祝子。だが、そんな祝子の前に、繰り返し姿を現す優。なぜか優には、祝子のいる場所がわかってしまうのだった……。
不思議なテイストの恋愛小説だった。そう、自分はこの小説を純粋な恋愛小説として読んでしまったのだ。とりわけ前半は、透明感のあるピュアすぎる恋愛を描いた小説として読めてしまったのだ。歳の離れた優に対して臆病にならざるを得ない祝子の様子が、なんとも愛おしく思えてしまう小説なのだ。
後半に入ると、そこに新興宗教ネタが絡み、ノストラダムスの大予言的なネタとか、横溝正史的な因習にとらわれた村とか、予想だにしなかったさまざまなネタまでが贅沢に投入され、あれよあれよという間にクライマックスにまで連れて行かれてしまう。
過去の高野史緒の小説とは、また随分違った作品だなと思うのだけれど、それでいて歌舞伎町の描写などは「やっぱり高野史緒!」と思わせられる。なにしろ、複雑に入り組んだ立体構造体をしていて、AI表示によって目的地に案内されたりするのである。巣鴨の治療院という、なんとも俗っぽい世界を舞台にしていると思っていると、いつの間にか独特の高野史緒ワールドに引きずり込まれてしまうのである。
最後のページに辿り着くと「もっと読んでいたい。この先の話を読ませてほしい」と、思わずにいられない。「いつか後日談を書いてほしい」と思ってしまう。そう思わせる魅力のある小説だった。