佐藤有文『骨なし村』カイガイノベルスを読了。
表題作の他「黒い血脈」「地底魔人ドグマ」「死神蝶舞曲」「蟷螂幻想」を収録。
黒血病の村を探して岩手県北部に赴任してきた医者の主人公のもとにやってきた年齢不詳の女性。治療を続けるうちにみるみる若返って美しい女性となったが、ある日、空気のしぼんだゴム人形のような老婆の遺体を残して姿を消してしまう。それを追って山奥に踏み込んだ主人公は、体中の骨が溶けてしまう骨なし病の蔓延した村に辿り着くのだった……という、なんとも不思議な雰囲気の横溢する作品が表題作の「骨なし村」。
愛する女性を追って岩手県の山奥に踏み込んだ主人公は、黒血病に呪われた一族の住む村に辿り着く。そこでは、黒い血の呪いをとくために、周辺から攫ってきた人間の赤い生き血をすする儀式がおこなわれていたのだった……というのが「黒い血脈」。表題作の「骨なし村」とつながる題材の作品だ。
凄いのは、130ページほどある「地底魔人ドグマ」だ。岩手県の山奥にあるというストーンサークルを探しにきた石神一郎は、温泉宿の女中をしていた西宮律子という女性と関係を持つが、その女性の生首が発見され、それがきっかけとなって地下に巨大な秘密の研究施設を持つドグマ博士なる怪人物のもとで死者再生の手伝いをさせられることになる。なんと、その施設では行方不明になった西宮律子が首だけで生かされていた。そこからどんどんとんでもない物語が展開され、ついには死者の肉体を使って作られた身長10メートルもの巨人が施設を抜け出して村で暴れるという事態までが引き起こされてしまう。まさに怪作中の怪作ともいうべき作品で、これほどの怪作を埋もれさせておくのは実にもったいないとすら思えてしまう。「ミステリ珍本全集」という叢書があったが、いわゆるその手の作品であり、しかも、怪作としてのレベルが実に高い。
著者によるあとがきを見ると、「『地底魔人ドグマ』は、コンピューター科学文明に対する人間世界の危機というテーマで、怪奇小説の分野から描いてみた実験的作品のつもりであった。なお、この『地底魔人ドグマ』の続篇を現在執筆中であり、今秋には改めて発刊したいと思っている。」とあり、テーマ云々に関しては首をかしげざるを得ないけれど、続篇が書かれたのならぜひとも読んでみたいと思わずにはいられない。
「死神蝶舞曲」は蝶を題材とした短い幻想譚で、「脈なし病」という奇妙な病気が登場する。
「蟷螂幻想」はカマキリを題材とした短い幻想譚。
いずれも、主人公の行動が唐突だったり、理路整然としていなかったり、小説としてはやや稚拙な部分もあるのだけれど、そういう部分も含めて奇妙な味がありけっして嫌いではない。また、微妙にエロティックな雰囲気があったりもして、それもまた魅力となっている。
なお、本書にはイラストが多く収録されているのだけれど、イラストの他に写真も多く収録されているのだけれど、この写真を載せている意味がよくわからない。どこにでもあるような山林の写真だったりするのだ。あるいはストーンサークルの写真だったりするのだけれど、こうした写真を載せる必要性がまったくわからない。奇妙なのは、小説の中身だけではない1冊なのである。