エストニア映画『ノベンバー』を観る。
モノクロの映画である。なんとも不思議な映画で、正直、内容をしっかり理解できたかというと、それはできていない。というか、理路整然としたストーリーがある映画ではなく、なんとなくのイメージで理解するのが正しい映画であるように思われる。
自分でストーリーを紹介するのは難しいので、ホームページから引用する。
「月の雫の霜が降り始める雪待月の11月、「死者の日」を迎えるエストニアの寒村。戻ってきた死者は家族を訪ね、一緒に食事をし、サウナに入る。精霊、人狼、疫病神が徘徊する中、貧しい村人たちは“使い魔クラット”を使役させ隣人から物を盗みながら、極寒の暗い冬を乗り切るべく、各人が思い思いの行動をとる。そんな中、農夫の一人娘リーナは村の青年ハンスに一途な想いを寄せているが、ハンスは領主であるドイツ人男爵のミステリアスな娘に恋い焦がれる余り、森の中の十字路で悪魔と契約を結んでしまうのだった──。」
ここに登場する使い魔のクラットというのが冒頭に出てくるのだけれど、三つ股の枝の先に鎌や斧がついているというような不思議な姿をしていて、それが牛を鎖で縛り付けて宙を飛んでくるという、とにかくインパクトのある映像で映画が始まる。このクラットというのは、悪魔と契約して人間の仕事を手伝わせるために手に入れるもので、特に決まった姿というものはなく、人間が作ったものをクラットとするものらしい。映画には、雪だるまにクラットを降ろしたものも登場する。
神話、伝説が息づいている寒村が舞台で、「死者の日」には本当に死んだ先祖が家族のもとに帰ってくるし、疫病は女性の姿で村に入り込み、豚の姿となって村人に襲いかかる。村には魔女がいて、村人の相談相手となっている。
そうした不思議な映像が次々と展開されるのだけれど、その映像がとにかく美しい。モノクロゆえの幻想的な映像が続き、ただただその映像に魅入られてしまった。
そして、そこで描かれるのは純愛なのだ。村娘のリーナはハンスのことをずっと想い続けているのだけれど、ハンスはある日見かけたドイツ人の領主の娘のとりことなってしまう。この純愛が、静かに静かに美しい映像で描かれていく。
ほとんどなんの予備知識もないまま観たのだけれど、これはなかなかの収穫だった。ふだんはシンプルな娯楽映画ばかりを観ているのだけれど、たまにはこういう映画を観るのもいいものだ。