植木等主演の『香港クレージー作戦』を観る。
小さな飲み屋が建ち並ぶ「のん平横丁」。サラリーマンの植木等はそのあちこちにツケを溜めているのだけれど、立ち退き問題が発生したと聞き、ツケをチャラにすることを条件に行動を起こす。そして、香港に進出してレストランを開業する手はずを整えてしまうのだった。
かくして、ハナ肇、谷啓、犬塚弘、安田伸、桜井センリ、石橋エータロー、浜美枝を引き連れて香港に乗り込んでいく植木等だが、PR不足で客はまったくこない。そこで、あの手この手で店を軌道に乗せようとするのだが……。
植木等がいつもの調子のいい男を快演しているのだけれど、実はぜんぜん無責任男ではない。なんのかんの言いながら、しっかり仲間のプラスになるアイデアをひねくりだして、それをガンガン実現していくのである。そこが観ていて楽しい。これが単なる無責任男だったら、こんなに楽しい映画になっていないだろう。
脚本は『サラリーマン出世太閤記』『社長行状記』などの著書もある笠原良三。「社長シリーズ」の脚本家としても有名だが、『大学の若大将』などの若大将シリーズ、『日本一のゴマすり男』などの一連の植木等主演作などの脚本も書いている。
クレイジー・キャッツが歌い踊るシーンも当然あるが、それ以上に中尾ミエの歌うシーンがとってもいい。こんなに歌がうまかったんだと、初めて知った。彼女の全盛期をリアルタイムで観てはいても、幼すぎてそこまでは分からなかったもんなあ。音楽担当は神津義行。神津カンナの父親という認識だったのだけれど、中村メイコの旦那さんだったのね(そのあたり、とっても疎いのです)。
あと、植木等の相手役で出ているのが浜美枝。ビーチに出るなりビキニ姿でゴーゴーを踊っていたけれど、当時の日本人としてはきわだってスタイルが良かったんだろうな。
他に、有島一郎、柳家金語楼、淡路恵子、由利徹、塩沢とき、世志凡太などが出ている。
1963年の作品なので、いまとなっては失われてしまった香港の古い光景をたっぷり観ることができるのも楽しい。
ところで、勤務時間中に家に帰ってひと眠りした植木等が、「さあ、風呂へでも行って、さっぱりしてぼつぼつ出勤するか」と言って、箱形のスチームバスの並ぶ施設に行くシーンが出てくる。思わず「ああっ、これだ!」と思ってしまった。なにが「これだ!」なのかというと、自分が学生時代に映画を観に行っていた蒲田の映画館で流れていた「トルコ万喜」というお店の広告が、まさにこの箱形スチームバスに入っているお父さんとビキニの女性の絵だったのである。
このあと、植木等は柳家金語楼演じる社長から「勤務時間中にトルコ風呂に行くとはなにごとだ!」と叱責されるのだけれど、どうやら当時は、スチームバスで汗を流して、そのあと垢すりとかマッサージをしてもらえるこうしたお店がトルコ風呂と呼ばれていたものらしい。蒲田にあった「トルコ万喜」が、こうした健全な店であったのか、それともそうでなかったのかは分からないけれど、もしかしたら映画館で広告を流していても、それほど違和感のない施設であったのかもしれない(昭和50年代に入っていたので、それはないのかな?)。