【映画】濡れた人魚妻(Nerisa)

 フィリピン映画『濡れた人魚妻(Nerisa)』を観る。

 フィリピンの小さな島。漁師のオベット(アルジュ・アブレニカ/Aljur Abrenica)は、海で溺れていた美しい娘(シンディ・ミランダ/Cindy Miranda)を助け、村に連れ帰る。娘は記憶を失い、自分の名前も、どこから来たのかも、何も覚えていなかった。彼女はネリーサと名づけられて、オベットのもとで暮らすようになり、やがてふたりは愛し合い結婚することに。しかし、迷信深い村人たちは、彼女がわざわいをもたらす人魚ではないかと囁きかわしていた。
 その頃から村では不漁が続き、オベットたちは村長の反対を押し切って、中国の巡視艇に襲われる危険のある遠方の海まで出かけていく。だが、漁船は戻らず、船の破片だけが戻ってきたのだった。夫の生存を信じるネリーサは、オベットを救うために沿岸警備隊にかけあうのだが、そこの責任者は救難に向かうのと引き替えにネリーサの体を求める。
 さいわい、オベットは無事に生還するのだが、ネリーサが他の男に抱かれたということを知り、酒に溺れるようになり、やがて悲惨な末路へと繋がっていくのだった。

 中盤からは、なかなか胸くその悪い展開が続き、いささかうんざりさせられる。女性が意に沿わぬセックスを強要されるような場面は、実にやりきれない。ましてや、レイプの場面ともなると、観たくもない。しかし、そうした場面があってこその、その後の爆発的な展開に繋がっていくのだけれど。
 ラストの展開では、ずいぶん昔に観た日本映画『人魚伝説』を思い出したのだが、『人魚伝説』の記憶が曖昧なので、もしかしたらぜんぜん違っていたかもしれない。
 そして、人魚かもしれないと噂されるネリーサが現れることで不漁が始まり、それが悲劇へとつながっていく展開には、ポール・ソリアノ監督の『漁師』との類似も多く見られ、おそらくフィリピンにおける人魚伝説の普遍的なパターンを踏襲しているのだろう。
 ビバフィルムの作品としては、エロティックな場面は控えめで、ストーリー重視の映画となっている。いま書いたように、いささか気分の悪い展開もあり、好きなタイプの作品ではないのだけれど、さすがはローレンス・ファハルド監督の作品だけあって、見せることは見せる。

 監督のローレンス・ファハルド(Lawrence Fajardo)は、2015年の『インビジブル(Imbisibol)』、2020年の『金継ぎ(Kintsugi)』といった日本にロケをした作品でもわかるように、どちらかというとインデペンデント映画の撮り手なのだけれど、最近ではビバフィルム製作のエロティックサスペンスなども多く撮っている。しかし、そうしたエロティック路線のビバフィルムでありながら『A HARD DAY』のような硬質なサスペンスも撮っているのだが。
 脚本はリッキー・リー。イシュマエル・ベルナール監督の『奇跡の女(1980)』、マリルー・ディアス=アバヤ監督の『ブルータル/暴行(1980)』などの脚本を書いた伝説的な脚本家である。1948年生まれとのことなので、現在75才。日本でいえば団塊の世代だ。IMDbを見ると、189本の脚本を書いていることになる。
 主演のシンディ・ミランダは、正直いうと、ちょっと印象に薄い顔立ちだったりする。本作では大胆なヌードを披露しているが、最近ではテレビシリーズにも多く出演している。近々観ようと思っている『アダン 禁断の果実(Adan)』にも出ているらしい。
 オベットの妹リレットを演じているのが、ビバフィルムの売れっ子女優のAJ・ラヴァル(AJ Raval)だ。あどけない顔立ちでありながら、大胆な濡れ場を演じたりしていてフィリピンでも人気のようだが、本作ではヌードを披露する場面は1箇所だけ。彼女のモノローグで物語りが進行し、どちらかというとヒロインを傍らから見守るような位置づけとなっている。彼女の主演作では『Crush kong curly』を観たが、明るいエッチな映画がよく似合う女優だ。
 そして、村の男たちの相手をしている娼婦のジョニを演じているのがシェリー・バウティスタ(Sheree Bautista)。彼女もまたビバフィルムの売れ子女優で、自分が観た作品ではジョエル・ラマンガン監督の『Island of Desire』に出ていた。リレットがヒロインを傍らから見守る役なら、彼女は積極的に介入して、体を張ってヒロインを守る役割を担っている。謎めいたヒロインの両脇に、清純な少女と酸いも甘いもかみ分けた娼婦を配置したという形になる。そのあたりは、さすがはリッキー・リーの脚本ということなのだろう。