【読書】宮島未奈『成瀬は天下を取りにいく』新潮社

 宮島未奈『成瀬は天下を取りにいく』新潮社を読了。
「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」
 中学2年生の夏休み、閉店することになった地元のデパート「西武大津店」に毎日通い、地元のテレビ局が閉店までカウントダウン中継をおこなう放送に、毎日映ると宣言した幼なじみの成瀬。それに、つきあったりつきあわなかったりするわたしのひと夏を描いた「ありがとう西武大津店」。
「島崎、わたしはお笑いの頂点を目指そうと思う」
 唐突にそう言いだした成瀬とお笑いコンビを結成して、「M-1グランプリ」を目指すことになったふたりを描く「膳所から来ました」。
 この2本で、基本フォーマットができて、成瀬の宣言にわたし(島崎)がまきこまれるパターンの短編集かと思いきや、次の「階段は走らない」は、「西武大津店」の閉店を背景に、小学校卒業30年になるマサルたちが再会するという、まったく方向性の違う物語となる。成瀬と島崎は、その背景にちらりと登場してくるだけだ。
 そして「線がつながる」では、成瀬と島崎は別々の高校に進み、その成瀬と同じクラスになったわたし(大貫)から見た成瀬の姿が描かれる。
 「レッツゴーミシガン」は、高校かるたの全国大会に出場した成瀬が、広島県代表として出場していた俺(西浦)の気になる存在となってしまい、琵琶湖観光のクルーズ船に一緒に乗るという、これまた予想外の展開となる物語。
 そして最後が、父親の転勤で島崎が滋賀を離れてしまうということに動揺する成瀬を描く「ときめき江州音頭」。ここでふたたび「階段は走らない」のマサルたちが再登場して成瀬たちと接点を持つことになる。
 とにかく、成瀬という女の子のキャラが突出している。まわりの目など気にせずに、自分の思いのみで一直線に行動するキャラなのだ。そうした成瀬の行動、態度は同年代の女性から反感を買ったりもするのだけれど、とにかく我が道を行く成瀬はそんなことは気にしない。友人の島崎は、そんな成瀬のやることを見届けようと決めているのだけれど、見届けるだけではなくがっつり巻き込まれたりもする。最終話で成瀬は、初めてそんな自分の行動が島崎に迷惑をかけているのではないかということに気がつくのだけれど、それに対する島崎の対応がまたいい。まさに青春一直線の物語で、そのピュアさにおじさん読者はついホロリとさせられてしまうのだった。
 そして『成瀬は天下を取りにいく』というタイトルもいい。別に、成瀬が天下を取りにいくというほどの大きな物語はどこにもない。だけど、成瀬の行動はまさにそういうイメージなのだ。成瀬というキャラクターをみごとに言いあらわしたいいタイトルだ。
 『成瀬は信じた道をいく』という続篇も出ているので、こちらも読まなければ。