【映画】Mahjong Nights

 フィリピン映画『Mahjong Nights』を観る。

 コロナのためにしばらく集まることのできなかったマージャン仲間が、ひさしぶりにエステル(Mickey Ferriols)の広大な屋敷に集まってくる。やってきたのは、ワイロ(Arnel Ignacio)、アソン(Liz Alindogan)の夫婦と、実業家でもあるアンパロ(ジャミリア・オビスポ/Jamilla Obispo)の3人。
 屋敷にはあるじのレオ(ジェイ・マナロ/Jay Manalo)、エステルの連れ子のアレクサ(アンジェリ・カーン/Angeli Khang)、知的障害をかかえる使用人のビッグボーイがいて、アンパロは若い運転手のガスパール(ショーン・デ・ガズマン/Sean De Guzman)を伴ってきていた。
 4人は和気藹々とマージャン卓を囲み、アレクサとビッグボーイの作る料理を楽しんでいた。だが、その裏では家を支配するレオがアレクサを力づくでレイプし、アンパロは若いガスパールとの情事に耽っていた。しかし、レオがギャンブルで莫大な借金を作って追い詰められたことから、かろうじて保たれていた均衡は崩れ去り、悲劇が発生するのだった。
 相変わらずエロティックな描写を売り物にしているビバフィルムの作品なのだけれど、本作におけるエロティックなシーンはどちらかといえば控えめだ。いつもなら、ジェイ・マナロによる強引なセックスシーンにうんざりさせられるところだけれど、そこはけっこうサラリと描いている。比較的ねちっこく描かれていたのは、アンジェリ・カーンとショーン・デ・ガズマンによるラブシーンと、ジャミリア・オビスポとショーン・デ・ガズマンのカーセックスのシーンぐらいだ。
 それにしても、ローレンス・ファハルド監督の作品にしては、中盤の盛り上がりがほとんどないのにはガッカリだ。あれこれ細かいエピソードがありはするのだけれど、いまいちそれがやがて訪れる悲劇への伏線として生きてこない。ダラダラとエピソードを積み重ねているだけという印象なのだ。
 興味深かったのは、コロナ禍の物語なので、家を訪れた友人たちがみな、PCR検査の陰性証明書を持参してきていて、それを提示するまではハグをしようといないという描写。コロナ禍で多くの死者が発生したフィリピンならではの描写だ。マージャンをしながらも「こうして生きてまた集まることができた」と涙を流すシーンもあり、コロナウィルスによる被害がそれだけ大きかったのだろう。
 また、マージャンのルールが日本とはだいぶ違っているのも面白かった。登場人物たちはみな、中国系フィリピン人ということなので、中国風ルールなのだろう。捨て牌をきれいに並べないところなど、香港映画で見慣れたパターンなのだけれど、他にもだいぶ異なるルールであるようだった。
 主役のアンジェリ・カーンは、いままでに『ヴァージンフォレスト 愛欲の奴隷(Virgin Forest)』『Girl Friday』を観ているが、ちょっとロリっぽいあどけない顔立ちをしているのが人気なのだろう。ビバフィルムのセクシー路線の映画に出ずっぱりなのだ。
 イケメンの運転手を演じていたショーン・デ・ガズマンは、ジョエル・ラマンガン監督の『Anak ng macho dancer(マッチョダンサーの息子)』でデビューして、『濡れた人魚妻(Nerisa)』『Island of Desire』などに出ている。
 ジェイ・マナロはというと、香港のラウ・チンワンなみに濃い顔つきの役者で、権力を持った嫌な男を演じさせたらフィリピンいちと思っている。ジョエル・ラマンガン監督の『GIRL FRIDAY』で演じた州議会議員の役など、あまりに似合いすぎていて、とても演技とは思えない。
 アルネル・イグナシオは、ともすれば陰鬱な作品になりかねない本作において、常にジョークを飛ばし、ただひとり作品に明るい雰囲気を持ち込んでいて、いちばん印象に残る俳優だった。テレビ番組の司会者などを務めていて、映画出演は少なく、現時点では本作が最後となっている。