【読書】逢坂冬馬『歌われなかった海賊へ』早川書房

 逢坂冬馬『歌われなかった海賊へ』早川書房を読了。
 デビュー作の『同志少女よ、敵を撃て』が凄すぎたので、この著者は2作目を書けるのだろうか、どうあがいたところでデビュー作に匹敵する作品を書くことは無理なのではないだろうか、そう思っていた。
 が、2作目の『歌われなかった海賊へ』も素晴らしい作品で、この著者が本物であることを証明してのけた。
 『同志少女よ、敵を撃て』ほどの密度、緊張感はないかもしれない。が、ナチ体制下のドイツを舞台に、隣の町に作られた強制収容所の実態を知ってしまった少年少女の物語という、設定そのものがお見事。そして、前作同様、馴染みのない世界をきっちり描いてみせる知的バックグラウンドの確かさが、物語に説得力を持たせている。
 しかも、その後のエピソードにも泣かされる。姿を消した2人のその後についてまったく触れないところも、抑制がきいていてうまい。読者としては、どうしても気になる部分ではあるのだけれど、そこは読者の想像にお任せするということなのだろう。
 いま日本冒険小説協会が存続していたならば、来春の熱海で著者と会えただろうにと、ついつい思ってしまう。