★Island of Desire

【Island of Desire】2022年

監督:ジョエル・ラマンガン
キャスト:クリスティン・ベルマス、ショーン・デ・グズマン

 若き人妻のマルタ(クリスティン・ベルマス/Christine Bermas)は、死産を乗り越えることができず、不眠に悩まされていた。夫のカルロ(ラッシュ・フローレス/Rash Flores)は会社の元同僚との浮気をしているらしく、マルタとはセックスレスの関係が続いていた。また、認知症の母はマルタのことが分からず、ある日唐突に行方不明になった娘のオーロラの帰りだけを待っていた。
 そうしたストレスから精神科医にかかっていたマルタだったが、病院からの帰りに車を運転するカルロに「私のことをまだ愛しているの?」と問い詰め、返事がないことからヒステリーを起こしてカルロの握るハンドルに飛びつき、車は事故を起こしてしまう。
 そして、ここからなんとも説明のつかない、幻想的な物語が展開されることとなる。
 マルタはバスに乗って地域医療センターに辿り着き、そこでドクター・ユーロ(アンドレア・デル・ロサリオ/Andrea Del Rosario)からイスラ・バトゥに薬を届けるように言い渡される。ドクター・ユーロというのは、マルタがかかっていた精神科医なのだが。
 皆既日食によって暗くなった中を港に向かい、ボートに乗ってイスラ・バトゥに渡るマルタ。ボートのオーナーは、マルタが通っていた病院の前で彼女たちにしつこく絡んでいた物乞いの男なのだが。
 島に辿り着くと、ボートのオーナーはそこにやってきた女性とその場でセックスをはじめるが、マルタはレロイ(ショーン・デ・グズマン/Sean De Guzman)という若者のオートバイに乗せてもらって、地域の医療センターに送り届けてもらう。
 薬を届けるはずの医者はいなかったのだが、そこで働く助産婦のテス(ジェラ・クエンカ/Jela Cuenca)とともに運び込まれてきた妊婦の出産を手伝うと、妊婦が産んだ蛇によってテスは噛まれてしまう。
 その夜、テスが男性とセックスをしている光景を見たマルタの脳裡に、夫のカルロが別の女性とセックスをしている光景が一瞬フラッシュバックする。
 翌日、少数民族の住む村の医療のためにシティオ・ラカスという地域に向かう途中、なにやら不思議な儀式をしているカルト教団と遭遇する。その教団の教組の力によって目の見えなかった少女の目が見えるようになる光景を目撃したマルタは、教団のメンバーに追われ、逃げ惑うところをオートバイで通りかかったレロイに救われる。
 少数民族の住む村に辿り着いたマルタは、住民の治療を始め、急に産気づいた妊婦のもとに呼ばれるが、その妊婦が生んだのは子ヤギだった。
 再び遭遇したカルト教団の行列の中に見つけた姉のオーロラは、マルタに「早くこの島を離れなさい」と忠告するが、マルタはレロイと暮らし始め、やがて妊娠する。
 産気づいたマルタはカルト教団のもとに運び込まれて教組にレイプされ、赤ん坊は死んでしまう。
 そして、漁に出たレロイはボートが沈んで亡くなり、その葬儀の場に現れたオーロラは「この島を離れるように言ったはず」とマルタに言う。マルタは「姉さんを置いて自分だけ島を離れることはできない」と言うが、オーロラは「私はもう死んだ身だから、この島を離れることはできないの」と答えるのだった。
 こうしたわけの分からない物語の中に、ときどき、交通事故にあった直後のマルタとカルロの映像が挟み込まれる。つまり、この意味不明の物語は、死にかけているマルタが観ている幻想なのか、あるいは死にかけたマルタが辿り着いた死後の世界の物語なのだ。

 なんとも奇妙な映画なのだけれど、いったいどういう展開が待ち受けていて、物語がどこに辿り着くのかが気になって、一気に観てしまった。さすがはベテランのジョエル・ラマンガン監督の作品だけあって、ドキドキがとまらない映画に仕上がっている。
 が、ラストの意味がいまいち分からなかった。どうせ、他に観る人もいないだろうからラストをばらしてしまいます。ネタバレを回避したい方は、このあとの文章をスルーしちゃってください。

<ネタバレ開始>
 マルタは最後にボートに乗って島を離れるのである。ということは、死の世界から生の世界へと移動するという意味のはずなのだけれど、交通事故の治療を受けていたマルタは、そのまま死んでしまうのである。えっ、それってどういうこと? 島を離れることでマルタは生き返るんじゃなかったの?
 なんとも納得しがたい唐突なエンディングなのだ。
<ネタバレ終了>

 ヒロインのマルタを演じているクリスティン・ベルマスは、2021年にジョエル・ラマンガン監督の『Silab』でデビューしたばかりの新人なのだけれど、2022年に入ってから『SiKlo』『Sisid』『Moonlight Butterfly』『Island of Desire』『Scorpio Nights 3』『Lanpas Langit』という6本の映画に立て続けに出演している。いまや、ビバフィルムの売れっ子女優なのだ。しかも、『Sisid』はブリランテ・メンドーサ監督、『Moonlight Butterfly』『Island of Desire』はジョエル・ラマンガン監督、『Scorpio Nights 3』はローレンス・ファハルド監督と、監督にも恵まれている。ちょっと透明感のある可愛らしい顔つきの女優なのだけれど、エロティック路線を突き進んでいるビバフィルムの作品なので、大胆なヌードシーンを惜しげもなく披露してくれている。
 相手役のレロイを演じているショーン・デ・ガズマンも2021年にジョエル・ラマンガン監督の『Anak ng macho dancer』でデビューしたばかりの新人である。2021年にはさらに『Lockdown』『Nerisa』『Taya』『Bekis on the Run』『Mahjong Nights』と5本の映画に出演し、2022年に入ってからも『Hugas』『Island of Desire』『The Influencer』という3本の映画に出ている。
 テスを演じているジェラ・クエンカも2021年に映画デビューしたばかりの新人で、2021年に2本、2022年に8本の映画に出演している。彼女も大胆なヌードシーンを披露しており、いまやビバフィルムは、彼女たちセクシー女優たちのエロティックな作品に支えられていると言っても間違いはなかろう。
 そして、ドクター・ユーロを演じているアンドレア・デル・ロサリオはというと、ペドリング・ロペス監督の『マリア/MARIA』でクリスティン・レイエスを相手に死闘を繰り広げる殺し屋を演じていた女優ではありませんか! こちらでは一転して知的な女医さんを演じているのでびっくりしてしまった。

★A HARD DAY

 フィリピン映画『A HARD DAY(2021)』を観る。

 母親の葬儀のために車を走らせている刑事のヴィリオン(ディンドン・ダンテス/Dingdong Dantes)に、「内偵が入った」と同じ部署の刑事からと連絡が入る。彼らは賄賂を受け取ってヴィリオンのデスクにその金をしまいこんでいたのだ。その電話に動揺したヴィリオンは、路上にいた犬を避けて男をはねてしまう。
 ヴィリオンは遺体を車のトランクに詰め込んだまま母親の葬儀場に向かうが、汚職の証拠を求めて内偵の刑事が車を調べに来るという連絡を受け、遺体を母親の棺桶に詰め込み、母親と一緒に埋葬してしまう。
 だが、その時から彼を脅迫する謎の電話がかかってくるようになるのだった。

 次第に追い詰められていくディンドン・ダンテスが実にいい。自ら悪徳刑事として内偵のターゲットとされているのだが、さらに上を行く悪徳刑事からどんどん追い詰められていくのだ。
 そして、そのディンドン・ダンテスを追い詰めていく悪徳刑事フランコを演じているのが名優のジョン・アルシリア(John Arcilla)だ。このジョン・アルシリアのふてぶてしさがこれまた実にいい。まさに名優同士の激突なのである。
 いやはや、実に見ごたえのあるハードボイルド映画だったぞ。

 フィリピンの刑事ドラマとしては、異色といっていいほど脚本のデキがいいと思ったら、韓国映画『最後まで行く』のリメイクとのこと。自分はこの『最後まで行く』を知らなかったのだが、香港ではアーロン・クォック主演で『ピースブレーカー』としれリメイクされ、フランスでは『レストレス』としてリメイクされているのだという。

 監督は『アモク』『果てしなき鎖』『インビジブル』『金継ぎ』のローレンス・ファハルド(Lawrence Fajardo)。どちらかというとインデペンデント系の監督なのだけれど、この2年ほどはビバフィルムを舞台に純粋な娯楽映画を撮っている。ビバフィルムというとエロティックなスリラー映画が多いのだけれど、まさにその路線の映画をいいペースで撮っているのだ。ただし、本作だけはそうしたエロティック路線を離れて、きっちりとハードボイルド映画に仕上げてきている。フィリピンで見ごたえのあるハードボイルド映画というと、いままでエリック・マッティ監督の作品ぐらいしか観た覚えがないのだけれど、まさかローレンス・ファハルドがこうした映画を撮ってくるとは思わなかった。

 

★アンドレ・ブルトン『ナジャ』白水Uブックス

 アンドレ・ブルトン『ナジャ』白水Uブックスを読了。

 むかし、「若い頃、わたしはナジャのような女と呼ばれたことがあるのよ」と僕に言った女性がいた。それがずっと印象に残っていて、いつか『ナジャ』を読もうと思っていたのだけれど、なかなか機会がないまま今日に至ってしまった。ところが、先日覗いた古本市に200円で転がっているのを見つけてしまったので、いま読まなければ絶対に読まないままだなと思って手をつけた次第。
 で、読んだのだけれど、「ナジャのような女」というのがどういう女のことなのか、まるっきり分からなかった。というか、自分にはこの小説がほとんど理解できなかった。この小説は自分には向いていないということが分かっただけだった。
 こういう高尚な文学は自分には無理だ。
 「ナジャのような女」って、いったいどういう女のことだったのだろう?

★Kubot: The Aswang Chronicles 2

【Kubot: The Aswang Chronicles 2】2014年

監督:エリック・マッティ
キャスト:ディンドン・ダンテス、イザベル・ダザ

【Kubot: The Aswang Chronicles 2】のポスター


 日本でもビデオリリースされている『バトル・オブ・モンスターズ(Tiktik: The Aswang Chronicles)』の続篇で、2015年の第10回大阪アジアン映画祭で『クボ:化け物クロニクル』というタイトルで上映された作品。
 ずっと観たいと思っていたのだけれど、大阪アジアン映画祭で上映されたきりビデオリリースされる気配もなく、こちらが利用しているフィリピンの映画配信サイトでも扱いがなく、なかなか観ることのできなかった作品。ようやく、ネット上にこの作品があるのを見つけたのだけれど、日本語字幕はもちろん、英語字幕もなく、しかも観客の笑い声が入っているというちょっとやばい動画であった。
 それでも我慢して観たのだけれど、ストーリーはまったく把握できなかった。あとからWikipediaとかIMDbとかで調べれば詳細なストーリーぐらい見つかるだろうと思っていたのだけれど、残念ながらそれもなし。うーむ、紹介が難しいぞ。

 物語は前作の直後から始まる。命からがらアスワン(フィリピン映画によく登場する伝説上の妖怪)の襲撃をかわしたマッコイ(ディンドン・ダンテス/Dingdong Dantes)は、妻のソニア、生まれたばかりの息子のマッキー、ソニアの父ネスターらとともにバスに乗り込んで村を後にするが、そのバスはアスワンの別の種族「クボット」に襲われ、ソニアらは命を落とし、かろうじて生き延びたマッコイも右腕を失ってしまう。
 それから2年後、マッコイはマニラで姉のニエベス(ロトロト・デ・レオン/Lotlot De Leon)の家に身を寄せていた。
 ニエベス産婦人科医のアレッサンドラ・バルディビア(イザベル・ダザ/Isabelle Daza)の秘書として働いていたが、アレッサンドラが縛り付けた男性を手ひどく鞭打っている姿を見てしまい、その男性を救い出そうとする。だが、その男性こをがアレッサンドラたちに拘束されていたアスワンだったのだった。アスワンの攻撃によってアレッサンドラの家族は命を落とし、ニエベスとアレッサンドラはアスワンの一団に襲われることとなる。
 一方、アスワンの集団を率いるドミニク(ケイシー・モンテロ/KC Montero)は、攫ってきた人間の肉を使ったホットドッグを製造し、それを食べさせることで人間をアスワンに変えようとしていた。そのことに気がついたマッコイはアレッサンドラたちと手を結び、ドミニクの野望を未然に防ごうとするのだが……。

 と、おそらくはそういうようなストーリーなのだと思う。アレッサンドラの設定がいまいちよく分からなかったのだが、人間に味方するアスワンの一族かなにかなのだろうか? また、バスを襲ったアスワンの一族のひとりもマッコイらと一緒にドミニクと対立していたようだけれど、そのあたりの設定もまったく分からなかった。これだから、英語字幕がないと困るんだよなあ。

 でも、アクションシーンはなかなか頑張っているので、そこは字幕なんかなくても充分に楽しめる。特に、右腕をなくしたマッコイが、そこに武器を搭載した義手をつけてアスワンと戦うという設定は楽しい。フィリピン映画には珍しく、ワイヤーワークも使いまくりだ。

 監督は『牢獄処刑人』などのエリック・マッティ(Erik Matti)。その多くの作品は海外の映画祭などで上映され、東京国際映画祭でも上映されて何度か来日を果たしている。いまや、フィリピンを代表する監督のひとりと言えよう。
 最近はシリアスなホラー映画やミステリー映画が多いが、本作はエリック・マッティには珍しくコミカルな演出があちこちに挟み込まれている。もっとも、字幕がないので、その面白さはほとんど伝わらなかったのだけれど。
 主演はこうしたヒーロー役から、恋愛映画の二枚目から、サスペンス映画のマニアックなキャラクターから、とにかく多彩な役柄を演じているディンドン・ダンテス。妻は女優のマリアン・リベラで、実は本作にもちらっと出ているらしい。
 謎めいた女医アレッサンドラを演じているイザベル・ダザは、お初にお目にかかる女優だが、ちょっと気の強そうな表情が魅力的な女優だ。キャシー・ガルシア・モリーナ監督の『忘れられないあなた(It Takes a Man and a Woman)』が映画デビュー作とのこと。
 脚本は、エリック・マッティ監督の妻でもある日系人のミチコ・ヤマモト。数多くの話題作の脚本を書いてきた人で、日本語が通じるならあれこれ聞いてみたいと思ったのだけれど、残念ながら日本語はまったく通じないということだ。

 

 

★ブレージング・サドル

 メル・ブルックス『ブレージング・サドル』を観る。

 久しぶりに観たのだけれど、よくまあこんなくだらない映画を撮っていたものだと感心してしまう。そして、その世にもくだらない映画を映画館に観に行っていたむかしの自分を褒めてやりたくなる。
 西部劇である。列車が通ることになっている町ロックリッジ。その町の住民を追い出して大もうけを企む政治家がとった手段は、黒人の保安官を送り込むことだった。かくして、絞首刑直前だったバートが保安官に任命されてロックリッジの赴任することになるのだが……。
 というストーリー紹介はほとんど無意味。意味不明のギャグのオンパレードなのだ。たとえば、モンゴという暴れ者が町に送り込まれて、それを見た町人が「モンゴ、サンタマリア!」と叫ぶのだけれど、「モンゴ・サンタマリア」というキューバ出身のコンガ奏者を知っている人間がどれだけいることやら。悪党の名前がヘドリー・ラマーなのだけれど、みんながみんな名前を「ヘディ」と呼んで、そのたびに「ヘドリー」と言い返すのだけれど、「ヘディ・ラマー」という女優の名前を知らなければ何も面白くないぞ。さらには、マデリーン・カーン演じるドイツ出身の歌姫がマレィーネ・ディートリッヒのパロディだったりするし。
 最高にくだらないのが、豆料理を食いながらカウボーイたちが交互に発するオナラが音楽になるという場面。さすがにテレビ放映時にはオナラの音は消されたとのことだが。
 そして、クライマックスでは西部中からかき集めた悪党どもと町民たちが撮影スタジオを飛び出して暴れ回るという、なんともシュールな展開に。
 くだらなさの極地ともいうべき映画なのだけれど、なんと助演女優賞(マデリーン・カーン)、歌曲賞(作曲:ジョン・モリス、作詞:メル・ブルックス)、編集賞(ダンフォード・グリーン、ジョン・C・ハワード)の3部門でアカデミー賞にノミネートされているのである。大丈夫なのか、アカデミー賞?!

★プロデューサーズ(1967年)

 メル・ブルックス監督のプロデューサーズ(1967)』を観る。

 いままでは吹き替え版を繰り返し繰り返し観ていたのだけれど、今回初めて字幕版で観てみた。いやあ、字幕版でもめちゃくちゃ面白いや。やっぱり、何度も何度も吹き出してしまう。

 出資金を集めるだけ集めて、1日で上演中止になるような最低の舞台を用意すれば、余計にかき集めた出資金がすべて自分のものになるということに気がついたマックス(ゼロ・モステル)は、会計士のレオ(ジーン・ワイルダー)を巻き込んで、確実にコケる舞台を企画する。「ヒットラーの春」という史上最低の脚本を探し出し、最悪の演出家を手に入れ、最低最悪のヒットラー役者を用意して、絶対に大失敗する舞台に挑むのだが……。

 いやあ、本当に何度観ても面白い。のちにブロードウェイミュージカルとなってロングラン上演に結びつき、それがまた映画化されるという実にイレギュラーな展開を見せることになる作品だが、アカデミー脚本賞受賞も納得の面白さなのだ。

 ブルーレイには特典としてメイキングビデオ等も収録されているのだけれど、ウーラ役のリー・メレディスの元気な姿が観られたのは嬉しい限り。なかなか素敵なおばあちゃんになっているようでなにより。そして、今回初めて知ったのだけれど、あの脚本家を演じる予定だったのは、実はメル・ブルックスの近所に住んでいたダスティン・ホフマンなのだとか。それが、マイク・ニコルズ監督のオーディションを受けて『卒業』に出ることになったので、実現しなくなったのだけれど、ダスティン・ホフマンだったらどんな脚本家になっていたのだろう。
 また、上映会のトークショーに登場したメル・ブルックスが、アン・バンクロフトとの出会いを語っている動画なども収録されていて、歳とったけれど、相変わらず元気な姿を観ることもできる。
 さて、こうなってくるとメル・ブルックスの他の作品も観たくなってくるぞ。

★グエムル 漢江の怪物

 韓国映画グエムル 漢江の怪物』を観る。


 在韓米軍が大量に漢江に廃棄したホルムアルデヒドによって誕生した怪物〈グエムル〉によって娘を攫われた家族が、娘を取り戻すために怪物に挑むという怪獣映画。監督は『パラサイト 半地下の家族』のポン・ジュノ、娘を怪物に攫われたグータラな父親を演じているのがソン・ガンホという、なかなかの顔ぶれである。が、実は『パラサイト 半地下の家族』をあまり評価していない自分にとって、本作もなんとも的外れな作品としか思えなかった。

 怪物の造形はいい。実に素晴らしい。だが、主人公たちの行動がバカすぎて緊張感がまったく高まらない。主人公がバカなせいで娘は怪物にさらわれるし、父親は怪物に殺されるのだけれど、それがぜんぜん悲壮感につながらない。しかも、主人公だけではなく、怪物退治に乗り出す政府組織からなにからなにまで、みんなバカばっかり。これ、真っ当な脚本で作っていたら、かなり面白い映画になっただろう素材なのになあ。
 クライマックスでは、政府の巻いた毒煙の中で怪物はのたうちまわるのに、人間が平気でいるってのもおかしいし、全身にガソリンを振りかけられた怪物に火炎瓶を投げつけようという場面で投げ損ねるとか、緊張感をそぐことおびただしい。
 しかも、娘をめぐるあの結末のつけかたも納得いかないし。
 なんだろう。いくらでも面白くなる素材なのに、わざとセンスの悪い方、悪い方へと定石をはずしてしまったとしか思えない映画だった。監督には、面白い怪獣映画を撮る気など、さらさらなかったのかもしれないし、その点であれこれ評価している文章も目にしているのだけれど、シンプルな怪獣映画を期待していた当方としては、実にもってガッカリだった。