★A HARD DAY

 フィリピン映画『A HARD DAY(2021)』を観る。

 母親の葬儀のために車を走らせている刑事のヴィリオン(ディンドン・ダンテス/Dingdong Dantes)に、「内偵が入った」と同じ部署の刑事からと連絡が入る。彼らは賄賂を受け取ってヴィリオンのデスクにその金をしまいこんでいたのだ。その電話に動揺したヴィリオンは、路上にいた犬を避けて男をはねてしまう。
 ヴィリオンは遺体を車のトランクに詰め込んだまま母親の葬儀場に向かうが、汚職の証拠を求めて内偵の刑事が車を調べに来るという連絡を受け、遺体を母親の棺桶に詰め込み、母親と一緒に埋葬してしまう。
 だが、その時から彼を脅迫する謎の電話がかかってくるようになるのだった。

 次第に追い詰められていくディンドン・ダンテスが実にいい。自ら悪徳刑事として内偵のターゲットとされているのだが、さらに上を行く悪徳刑事からどんどん追い詰められていくのだ。
 そして、そのディンドン・ダンテスを追い詰めていく悪徳刑事フランコを演じているのが名優のジョン・アルシリア(John Arcilla)だ。このジョン・アルシリアのふてぶてしさがこれまた実にいい。まさに名優同士の激突なのである。
 いやはや、実に見ごたえのあるハードボイルド映画だったぞ。

 フィリピンの刑事ドラマとしては、異色といっていいほど脚本のデキがいいと思ったら、韓国映画『最後まで行く』のリメイクとのこと。自分はこの『最後まで行く』を知らなかったのだが、香港ではアーロン・クォック主演で『ピースブレーカー』としれリメイクされ、フランスでは『レストレス』としてリメイクされているのだという。

 監督は『アモク』『果てしなき鎖』『インビジブル』『金継ぎ』のローレンス・ファハルド(Lawrence Fajardo)。どちらかというとインデペンデント系の監督なのだけれど、この2年ほどはビバフィルムを舞台に純粋な娯楽映画を撮っている。ビバフィルムというとエロティックなスリラー映画が多いのだけれど、まさにその路線の映画をいいペースで撮っているのだ。ただし、本作だけはそうしたエロティック路線を離れて、きっちりとハードボイルド映画に仕上げてきている。フィリピンで見ごたえのあるハードボイルド映画というと、いままでエリック・マッティ監督の作品ぐらいしか観た覚えがないのだけれど、まさかローレンス・ファハルドがこうした映画を撮ってくるとは思わなかった。