【読書】ホレス・マッコイ『屍衣にポケットはない』新潮文庫

 ホレス・マッコイ『屍衣にポケットはない』新潮文庫を読了。
 ホレス・マッコイを読むのは、角川文庫の『彼らは廃馬を撃つ』、ハヤカワ文庫の『明日に別れの接吻を』に次ぐ3冊目。3冊すべてが異なる出版社から出たわけだけれど、まさか新潮文庫から出ようとは思わなかった。
 地方紙「タイムズ・ガゼット」の新聞記者ドーランは、社会悪を摘発する記事を、ことごとく上層部によって握りつぶされたことに嫌気をさし、独立して真実を報道するための週刊誌を発行する。権力者の腐敗を報道する彼の週刊誌は、市民の支持を得て順調にいくかに見えたが、彼のターゲットとなった権力者たちが、彼の活動を妨害すべく立ちふさがるのであった……。
 きわめてシンプルな構図の小説で、非常に読みやすい。込み入った要素は微塵もない。だが、それだけの小説と断じることのできないなにかがこの小説にはあるように思えてしまう。ホレス・マッコイの小説、表面的なストーリーを楽しむだけではない、なにかが潜んでいて、それが妙に魅力的なのだけれど、それがなんなのかがいまいちはっきりしないので、単純に「面白かった」と言えないのがなんともはがゆい。
 また、本書にかぎって言えば、主人公と女性たちとのやりとりがあれこれと出てくるのだけれど、そのあたりの登場人物たちの心理の動きがいまいちわかりにくい。主人公がなにを考えているのか、相手の女性のことをどう思っているのか、そのあたりがどうもストレートに伝わって来ないのだ。
 あるいは、重大な事態に陥りつつあるのに、主人公がそれに無頓着なのも、いまいちピンとこない。主人公が自信過剰ということなのだろうか。
 つまりは、主人公の性格がどうもつかみにくいのだ。あるときは社会悪を許すことができずに怒りを燃やす熱血漢という一面を見せるのだけれど、別の場面では結婚相手の父親から金をむしり取ったり、あるいは非常に計画的な一面があるように見えながら、けっこう刹那的な行動をとってみたりと、どうにもすっきりしないキャラクターなのだ。
 そういうわけで、面白く読んだわりには、なにかしっくりこない違和感が残ってしまって、なにやらモヤモヤしてしまっているのである。