【映画】Rewind

 フィリピン映画『Rewind』を観る。
 昨年のメトロマニラ・フィルム・フェスティバルに出品された作品。

 互いを愛し合い幸せな結婚をしたはずのジョン(ディンドン・ダンテス/Dingdong Dantes)とメアリー(マリアン・リヴェラ/Marian Rivera)。だが、いつのまにかジョンの頭の中は職場での出世のことばかりとなり、家族のことはまったく見向きもしなくなっていた。本人は、そのことに気づいてもいないのだけれど。しかも、気が短くすぐにかんしゃくをおこす性格のゆえに、メアリーも息子のオースティンも、腫れ物を触るようにジョンに接するしかなかった。
 ジョンは、職場で進行していた大きなプロジェクトのリーダーになれるものと信じていた。だが、協調性のなさが問題となって、自分よりも劣ると思っていたヴィヴィアン(スー・ラミレス/Sue Ramirez)がプロジェクトリーダーに選ばれてしまう。彼の名付け親でもある社長は、穏やかに彼をなだめるのだが、かんしゃくを起こして自分を抑えることのできなくなったジョンは、衝動的に会社を辞めてしまう。
 その翌日、息子が脚本を書き、ピアノ演奏を担当する発表会に車で向かう途中、ジョンの辞任を知ったメアリーと口論になってしまう。さらにはジョンを陥れるためにヴィヴィアンが送ってきた動画によって感情を高ぶらせたジョンは、車のコントロールを失い、車は立木に激突。大けがをおったメアリーは救急病院に運ばれるが、午後3時ちょうどに命を落としてしまう。自分が失ったものの大切さに初めて気がつき、慟哭するジョン。
 そんなジョンの前に奇妙な男(ペペ・ヘレーラ/Pepe Herrera)が現れる。彼は、メアリーを生き返らせるには、誰かが代わりに命を提供しなければならない。もしジョンが代わりに命を提供するのなら、もう一度やりなおすチャンスを与えようと提案する。あり得ない提案だが、酒に酔っていたジョンは、過去をやりなおすその唯一のチャンスにすがりつき、同意するのだった。そして、ふと気がつけば、彼は事故の前日の職場にいた。本当にやり直すチャンスを与えられたのだ。
 それまでの自分を心から後悔したジョンは、職場の仲間に対する態度を変え、家族に対する態度を変え、メアリーとの愛をとりもどす。そして、運命の日、息子の発表会の会場へと向かうのだが……。

 脚本が実によくできている。細かいエピソードを積み重ねて、ジョンのどうしようもないキャラクターを容赦なく描いていく。その描写があるからこそ、やりなおすチャンスを与えられたあとの行動との対比が際立ってくる。本当は家族のことを心から愛していたのに、いつしかそのことを忘れていたのだというジョンの内側がみごとに浮き彫りになってくるのだ。
 また、過去のいきさつから父親を徹底して拒絶していたジョンが、父を許して受け入れるさりげないエピソードなどもグッと胸に迫る。あるいは、本人の希望を無視して息子にサッカーを強制していたことを反省し、これからは自分のやりたいことをやれ、好きなピアノの道に進むのでもいいぞと、息子を抱きしめるエピソードなども実に泣かせる。そういう細かいエピソードがとてもいいのだ。いちばん難しいのは、ジョンにチャンスを与える神ともいうべき存在を、いかに違和感なく登場させるかというところだろうけれど、その最大の難関もみごとにクリアしている。
 脚本を担当しているのは、エンリコ・C・サントス(Enrico C. Santos)。『An Inconvenient Love』『Partners in Crime』『Fantastica』『Hellcome Home』など、数多くの話題作を担当している。もっとも、その作品を見てみると、いまいち作品の仕上がりにバラツキがあるようにも思えるのだけれど。

 主演のディンドン・ダンテスは、アクション、ホラー、ラブロマンスと、どんなジャンルの映画でも常に存在感たっぷりにこなしてしまうフィリピンを代表する男優のひとりだ。本作においてもその実力ぶりは遺憾なく発揮されていて、かんしゃくを抑えきれない気の短い男を非常にリアルに演じたかと思うと、事故直後の場面では愛する者を失った哀しみを全身で表現して、観客の感情をめいっぱいゆさぶってくれている。そして、マリアン・リヴェラはというと、なんといってもスーパーヒロイン「ダルナ」を演じたテレビシリーズが代表作となっているのだけれど、それだけではなく数多くの映画にも出演している名女優のひとりである。そしてこのふたりは、実生活でも実際の夫婦で、結婚した当時は大物スター同士の結婚ということで大いに話題になったものだった。
 気になったのは、ひょうひょうと神を演じているペペ・ヘレーラの存在で、他に何に出ているか調べてみたらブランドン・ヴェラ主演のゾンビ映画『DAY ZERO/デイ・ゼロ(DAY ZERO)』とか、『Princess 'Daya' Reese』『3pol Trobol: Huli ka Balbon!』『DOTGA: Da One That Ghost Away』とか、けっこう面白い映画に出ているではありませんか。なんとも雰囲気のある彼の存在抜きにしては、本作は成り立たなかっただろうと思えるほど、みごとな演技でありました。
 ちなみに、『バードショット(Birdshot)』に出ていた美少女のメアリー・ジョイ・アポストル(Mary Joy Apostol)も出ているはずなのだけれど、うっかり見落としてしまった。ジョンとメアリーの家の家政婦役で出ていたはずなのだけれど、どうして見落としたかなあ。残念!
 監督は『恋に落ちずにいられない(Can't Help Falling in Love)』『毎日あなたを愛してる(Everyday I Love You)』『君はクレイジーでビューティフル(Crazy Beautiful You)』などの多くの名作を世に送り出してきたメイ・クザリナ・クルーズ(Mae Czarina Cruz)。さすがに、この手の映画を撮らせたら、実にうまい。