【読書】月村了衛『対決』光文社

 月村了衛『対決』光文社を読了。
 日邦新聞社会部記者の檜葉菊乃は、統和医大裏口入学の取材中に、入試の際に女子の点数を一律減点して女子を合格させないようにしているという情報を手に入れる。さらに取材を進めると、医療関係者のほとんどがその事実を知っていたということも判明する。ある男性医師は、逼迫した医療の現場で必要としているのは体力のある男性で、結婚、出産を控えた女性医師を育てる余力は現場にはない、差別はよくないが現場としてはやむを得ないことであるとすら話す。反論しがたい現実があることは間違いがない。だが、明らかな女性差別である。とんでもないスクープに檜葉は身震いするが、なんら証拠がない。なんとしてでも、証拠を手に入れなければ。
 統和医大の理事のひとり神林晴海は、日々、セクハラ、パワハラにさらされながら、大学職員を守る、大学の職場環境をよくするという目的のために身を粉にして働いていた。そこに女子受験生差別入試問題が発生し、その対応窓口を押し付けられてしまう。ただひとりの事務職出身理事で、旧来の意識にとらわれたままの他の理事たちからすれば煙たいだけの存在であった彼女をスケープゴートに据えた決定であった。それがわかっていても、あるいは女性差別は許されるべきではないと思いながらも、神林は大学を守るということを最優先しないわけにはいかなかった。
 檜葉と神林、ともに女性であるということで苦しい闘いを経て現在地に辿り着いたふたり。女性差別は許されないという共通の強い想いを持ったふたり。それでいて、互いに譲ることのできない大切なもののために、対立せざるを得ないのであった。かくして、当事者の証言を得るために神林にターゲットを絞った檜葉と、なんとしてでも大学を守ろうとする神林の、それぞれの人生をかけた「対決」が展開されるのであった。
 作品ごとに全力投球をする月村了衛の本作におけるテーマは「差別」である。実に難しいテーマだ。作品中でも、新聞記者たちが「差別」について議論を繰り広げる。
「人間どこまで行っても差別はあるんだよ。でもそれを受け入れるのと、なんとかしようとするのは別だ」
「きれいな娘にきれいだって言うのがよくないなんて、それって、なんかおかしくねえか」
 結局、「お互い、あれこれ考えつつ、なんとか折り合いをつけていくしかないってことですよ」という、なんとも曖昧な結論にしか辿り着かない。
 しかし、それであっても女性差別は許されない。その強い怒りが登場人物たちを動かしていく。理不尽さに満ち溢れた現状に対する怒りが、小説の底流となり、ぐいぐいと読ませていくのだ。
 月村了衛、まだ未読の作品が何冊もあるので、がんがん読んでいかなければ。