中国映画『1950 水門橋決戦』を観る。
朝鮮戦争に介入して北朝鮮に侵入したアメリカ軍を退けるために、金日成の要請を受けて毛沢東が送り込んだ中国軍の死闘を描く戦争映画『1950 鋼の第7中隊』の続編。前作ですでにボロボロになった第7中隊に、アメリカ軍の退路を断つために長津湖の水門橋を破壊せよとの命令が下る。極寒の雪山を水門橋に向けてじわりじわりと進んでいく第7中隊。このシーンをチラリと観た家内から「『八甲田山』?」と聞かれたのだけれど、まさにそんな感じの映像だ。
そして、水門橋をめぐってアメリカ軍相手に繰り広げられる苛烈な戦闘。なにせ、軍備において格段の差のある両者である。制空権すら握っているアメリカ軍が簡単に第7中隊を蹴散らして当たり前なのだけれど、本作は中国共産党成立100周年祝賀作品として作られた映画なので、基本的に「中国すごい!」を前面に打ち出している。なので、どんなにアメリカ軍が強大であっても、中国軍が負けるはずがないのだ。ひとり、またひとりと我が身を犠牲にする兵士たちによって血路が切り開かれ、アメリカ軍の基地を火だるまにして、水門橋に迫っていくのだった!
まあ、露骨な国威発揚映画だということはわかっていたので、そこはあらかじめ覚悟していたからいいとして、激しい戦闘シーンがひたすら続くまったくゆとりのない作品なので、とにかく観ていて疲れる。延々とハイテンションかつリアルな戦闘シーンが続くのだ。しかも、その戦闘シーンの迫力が実に容赦ない。途中で「そろそろ勘弁してほしい」という気分になってしまう。
そして、アメリカ兵はことごとくその他大勢のキャラクターとして片端から殺戮され、中国兵はひとりひとりが愛国軍人として見せ場を作って死んでいくのである。そのパターンの繰り返しなのだけれど、中国兵はみな、仲間のために我が身を犠牲にして死んでいく立派な軍人さんとして描かれるばかりなので、さすがに気持ちがついていけない。日本でいえば「爆弾三勇士」のようなもので、それをいま「かくあれ」とばかりに見せられても、「いやいや無理」と思うばかり。作品の中のここぞという場面で自己犠牲によって仲間を救うシーンがあるぐらいなら受けつけられるのだけれど、それの繰り返しというのはいささかつらい。
主演は、『戦狼/ウルフ・オブ・ウォー』などで中国愛国映画の英雄の座を我が物にしたウー・ジン(呉京)。すでに香港映画時代の凄腕の殺し屋みたいなイメージとはかけ離れた大物スターである。『流転の地球』『流転の地球-太陽系脱出計画-』では中国どころか地球を救う役どころだし、『MEG ザ・モンスターズ2』ではジェイソン・ステイサムと一緒になって巨大海洋生物を相手に闘うし、『ライド・オン』ではジャッキー・チェンをスタントマンとして起用するトップクラスのアクションスターだったりする。本作ではひたすら国のためにどんな苦難をも乗り越える不屈の兵士を演じている。「国のため」と言っても、よくよく考えてみると北朝鮮のために闘っているのだけどね。
監督はツイ・ハーク。前作はツイ・ハーク、チェン・カイコー、ダンテ・ラムの3人による共同監督作品であったが、今回はチェン・カイコー、ダンテ・ラムは制作にまわってツイ・ハークの単独監督作品……と日本のサイトでは紹介されているのだけれど、エンドクレジットを見るとやっぱりツイ・ハーク、チェン・カイコー、ダンテ・ラムの3人の名前が監督として並んでいるようなのだけれど、これはいったいどういうことなのだろう? 中国のサイトで調べても、やはり陳凱歌、徐克、林超賢の名前が導演として並んでいる。IMDbでもHark Tsui、Kaige Chen、Dante Lamの名前がDirectorsとして並んでいる。どうしてそれがツイ・ハークの単独作品として日本で紹介されているのだろう。誰か教えて。