【映画】Ten Little Mistresses

 フィリピン映画『Ten Little Mistresses』を観る。
 大富豪ドン・ヴァレンティン(ジョン・アルシリア/John Arcilla)の館に、彼の誕生日と、新型コロナ感染からの生還を祝って、ひと癖もふた癖もありそうな10人の愛人が集まってくる。実はパンデミックの間にヴァレンティンの妻チャロが亡くなったために、10人はみな、自分こそが正妻の座につけるものと期待して集まってきていたのだった。館には、ヴァレンティンの双子の弟のドン・コンスタンティン(ジョン・アルシリア)も駆け付けてくる。
 そのゲストたちを歓待するための準備を受け持っていたのは、メイド長のリリス(ユージン・ドミンゴ/Eugene Domingo)と大勢のメイドたちであったが、実はヴァレンティンが次の妻に選んでいたのは他ならぬこのリリスであった。
 ところがその夜、パーティの真っ最中に何者かの手によってヴァレンティンが毒殺されてしまう。台風のために警察の到着が遅れている間、リリスはメイドのチクレット(ドナ・カリアガ/Donna Cariaga)とともに犯人捜しに乗り出すのだが。
 なんとなんと、本格的なミステリー映画だったのである。フィリピン映画で、この手の犯人捜しの本格ミステリー映画を観たのは初めてだったので、ちょっと驚いてしまった。しかも、犯人が判明したかと思うと、さらに二転三転が繰り返されるというお約束の展開も待ち構えているのである。フィリピンの映画評論家が、アガサ・クリスティや『ナイブズ・アウト』を引き合いに出して本作を絶賛したとのことだが、さもありなん。とにかく、いままでのフィリピン映画にはなかったタイプの作品で、なおかつミステリーとしてのデキもいいという、ちょっと驚きの作品なのだ。
 容疑者となるのは、探偵役のふたりを含めて13人となるのだが、愛人が10人もいて混乱するだろうと思いきや、最初にそれぞれのキャラクターを上手に紹介していって、しかもそのキャラクターがそれぞれ際立っているので、ほとんど混乱がない。そのあたりは、監督の手腕が光っている。また、いい女優を使っているのだ。
 ポクワン(Pokwang)、アゴット・イシドロ(Agot Isidro)、アルシ・ムニョス(Arci Muñoz)、アドリアンナ・ソー(Adrianna So)といったお馴染みの女優が顔を揃えているほか、カルミ・マーティン(Carmi Martin)、クリス・ベルナール(Kris Bernal)、シャーリーン・サン・ペドロ(Sharlene San Pedro)、ケイト・アレハンドリノ(Kate Alejandrino)、イアナ・ベルナルデス(Iana Bernardez)といった女優たちが愛人役で出ている。で、実はこれで9人なのだけれど、もうひとり、クリスチャン・バブレス(Christian Bables)という男優も愛人のひとりとして出ている。
 そして、メイド長のリリスの捜査を手伝うチクレットを演じているドナ・カリアガが、なかなかよかった。いわゆるワトソン役なのだけれど、ここぞというところで名推理を披露するのは実はこのチクレットだったりするのである。見覚えはあるものの、いままでそれほど注目したことのなかった女優なので調べてみると、『A Very Good Girl』『Love Is Color Blind』『Neomanila』などの作品に出ていたらしい。
 監督は、『ダイ・ビューティフル』『ゲームボーイ』などのジュン・ロブレス・ラナ(Jun Robles Lana)。つい最近観たポクワンとユージン・ドミンゴ主演の『Becky & Badette』の監督でもある。本作では、監督、脚本、製作をひとりで兼ねている。精力的に新作映画を監督する他、The IdeaFirst Companyという会社を率いて数多くの映画製作も担当していたりする才人だ。