【映画】ハウスメイド 欲望のしもべ

 フィリピン映画『ハウスメイド 欲望のしもべ(The Housemaid)』を観る。

 デイジー(カイリー・ヴェルゾーサ/Kylie Verzosa)は裕福な家庭の住み込みのメイドとして雇われることになる。家には主人のウィリアム(アルバート・マルティネス/Albert Martinez)、双子を妊娠中のロクサーヌ(ルイス・デロス・レイエス/Louise Delos Reyes)、幼い娘のナミ、古くからその家に仕えるメイドのマーサ(ジャクリン・ホセ/Jaclyn Jose)がいて、時々、ロクサーヌの母親のエスター(アルマ・モレノAlma Moreno)が訪ねてきていた。
 デイジーロクサーヌにもナミにも気に入られるのだが、若くセクシーなデイジーに魅入られたウィリアムと関係を持ち妊娠してしまう。そのことに気づいたエスターは金で解決しようとし、ロクサーヌは強制的に流産させようとするのだが……。

 最初、なにか思惑ありげな表情を浮かべながら雇われた家に入ってくるデイジーを見て、これは絶対になにか過去の因縁かなにかがあって、復讐のために入り込んできたのだなと確信させられる。また、やたらとセクシーな肢体を見せびらかしてウィリアムを挑発するデイジーに、その思いはさらに強まった。だけど、ぜんぜんそういう内容ではなかった。セクシーな肢体で挑発しているのではなくて、そういう自覚のまったくないウブな女性にすぎなかったのだ。ウィリアムと関係を持ったのだって、ちょっといい男だったからという、それだけの理由にすぎなかったし、妊娠するかもしれないということにまったく思いが至らないような、そんな女の子だったのだ。
 いやいや、だけど、そうだとしたら、これはまったくのミスキャストだぞ。だって、カイリー・ヴェルゾーサという女優、その存在そのものがセクシーで、彼女が写っているだけでフェロモンがあふれだしてきて男性を惹きつけずにいられないような女優なのだから。浴室を清掃するというだけのシーンが、めちゃくちゃエロティックだったりするのだ。そんな純真な女性には、まったく見えないじゃないか。金持ちがよってたかって純真な女性の運命を狂わせ、その醜さをあらわにしていくというドラマを作るなら、もう少し純情そうな雰囲気の女優を起用しなければダメじゃん。
 とにかく、本作におけるカイリー・ヴェルゾーサという女優は、セクシーの権化ともいうべき存在だったのだ。そりゃ、ウィリアムでなくてもフラフラっとよろめこうというものだろう。しかし、人は分からないもので、この人、マニラ大学で経営学の学士号を取得していて、卒業後は幼稚園の先生として働いていたというのだ。
 そして、これほど色っぽい女優なら、過去に見たときにも絶対に印象に残っているよなとか思ったら、けっこう彼女が出ている映画を観ていながら、ぜんぜん気がついていなかったという情けなさ。『Ang Panday』『Ulan』『霊媒は恋の始まり(love the way U lie)』『Revirginized』とかにも出てるじゃん。
 一方で、ロクサーヌを演じていたルイス・デロス・レイエスは、なかなかのハマリ役。ちょっとあどけない雰囲気の顔つきでありながら、時として冷酷な一面を見せてくる。この女だったら、デイジーの飲む粉末ミルクの中に流産の薬を入れても不思議はないよなと感じさせてくれる。日本でロケをおこなった『Hanggang kailan?』、レズビアンを題材にした『たぶん明日(Baka Bukas)』などに出ている。
 しかし、いちばん存在感があったのは、マーサを演じていたジャクリン・ホセだろう。さすがは『ローサは密告された(MA' ROSA)』の主演女優だけのことはある。
 監督は、ビバフィルムでエロティックな作品を量産しているロマン・ペレス・ジュニア。テレビシリーズを含めると、2022年には9本の作品を監督し、2023年には8本の作品を監督している。

 ちなみに本作は、韓国映画『下女(1960)』をリメイクした韓国映画『ハウスメイド(2010)』をさらにフィリピンでリメイクした作品とのこと。韓国映画『ハウスメイド』は観ていないのだけれど、フィリピンでの映画評を見ると、本作は見事なまでの韓国版のコピーで、オリジナリティはほとんどないとのこと。ただし、女優に関していえばフィリピン版の方がずっと美人だということだけれど、その美人を起用したところがそもそも本作の間違いだと思うのだけどなあ。