
フィリピン映画『そして大黒柱は……(And the Breadwinner Is...)』を観る。監督:ジュン・ロブレス・ラナ、キャスト:バイス・ガンダ、ユージン・ドミンゴ。
台湾で働くバンビ(バイス・ガンダ)は、夜となく昼となく、ほんの少しも休むことなくひたすらに働き続けていた。それはすべてフィリピンに残してきた家族のため、家族が一緒に暮らせる家を建てるためだった。
ところが台湾で15年働いてようやく帰国した彼女を待ち受けていたのは、夢の新居などではなく、昔ながらの実家の荒れ果てた姿だった。実は、バンビの送金を元手に事業に手を出した弟のビボイ(ジョン・ヒラリオ)が何度も事業に失敗して借金を作り、いまやそのボロボロの実家すら抵当に入っている始末だったのだ。しかも、愛する母親はアルツハイマーが悪化していて、バンビのことを認識することができず、大昔に家を飛び出した長女のベイビーの帰宅だけを心待ちにしているような状態だった。
15年間の苦労を無駄にされたバンビは実家に飛び出して、一時的に友人の家に身を寄せる。だが、夢に現れた亡き父(ジョエル・トーレ)に「一家の大黒柱として家族を守る」と約束したことを思いだし、実家に戻るのだった。
ところが実家ではバンビの通夜が執り行われていた。バンビの荷物を盗んだ泥棒がバスに轢かれて、てっきりバンビが亡くなったものと思われていたのだ。しかし、そのことによって莫大な生命保険が入ると知った家族は、バンビを説得してバンビが亡くなったことにして生命保険を手に入れることにしてしまう。ところがそこに保険調査員のトントン(アンソニー・ジェニングス)が現れ、さらには長いこと行方不明だった姉のベイビー(ユージン・ドミンゴ)までもが帰ってきて、家族がぶつかりあったり、和解したりの、てんやわんやの騒動が巻き起こるのだった。
フィリピン映画が大好きな家族の物語である。家族の犠牲となって海外で働く大黒柱。その送金を浪費してしまう家族。その家族が何度もぶつかりあい、お互いを傷つけあい、そして最後は和解するというお約束の物語を、コミカルに描いている。『コール・ミー・マザー』では、ジュン・ロブレス・ラナ監督の生真面目な面がバイス・ガンダの破天荒なキャラクターを生かし切れていなかったように思うのだが、こちらはいかにもバイス・ガンダ映画らしいくだらないギャグがにぎやかに繰り返されていて、実に楽しい。突然『プライベート・ベンジャミン』のネタをぶちこんできたかと思うと、『Gandarrapiddo: The Revenger Squad』で演じたスーパーヒロインの格好で現れたりして、やりたい放題だ。やっぱり、バイス・ガンダの映画はこうでなくっちゃ。
かつてバイス・ガンダは若くして亡くなったウェン・V・デラマス監督とコンビを組んで大ヒット作を連発していた。年間興収第1位の作品を、何年も続けて生み出し続けていた。このふたりが組んだ作品は、内容はどうでもいいけれど、とにかく観客を楽しませたいという熱意にあふれていた。めちゃくちゃ勢いがあって、どの作品もものすごく楽しかった。本作には、そのデラマス監督のタッチが感じられるのである。デラマス監督が亡くなったあと、ジョイス・ベルナール監督と組んだり、新鋭のバリー・ゴンザレス監督と組んだり、ヒットメーカーであるキャシー・ガルシア・サンパナ監督と組んだりしたのだけれど、どれもデラマスタッチを意識しすぎて自分の持ち味を発揮できずにいまいちな作品となっていた。ところが本作は、ラナ監督が自分のテイストを保ちながらも、デラマスのタッチを感じさせてくれているのである。なんて素晴らしい。
バイス・ガンダの脇を支える俳優の顔ぶれも実に豪勢だ。亡くなった父の役でジョエル・トーレが出てきただけでも大喜びなのに、行方不明だった姉の役でユージン・ドミンゴが出てきたのにはびっくり。バイス・ガンダとユージン・ドミンゴの顔合わせだなんて、予想だにしていなかった。考えてみれば、ユージン・ドミンゴは最近のラナ監督作品の常連女優なので、そのラナ監督がバイス・ガンダを主演に撮ればユージン・ドミンゴと共演しても不思議はないのだけれど、やはりこの顔合わせにはびっくりしてしまった。また、弟の役でココイ・デ・サントス、妹の役でマリス・ラカールが出ているのも嬉しいかぎり。本作は2024年の作品なのでほんの2年前の作品なのに、このふたりの可愛らしさはなんなのだろう。反則級に可愛いではないか。マリス・ラカールなんて、同じ2024年の『Sunshine(サンシャイン)』とはまったく別人としか思えない幼さじゃないか。そして、なんとなんと、ココ・マルティンまでもが出てくるのだ!
これは、毎年のクリスマスシーズンになると公開されるバイス・ガンダのコメディ映画を楽しんできた人間にとって、最高のプレゼントともいうべき作品ではありませんか。いやあ、幸せな時間を過ごせました。
ただし、難点がひとつあって、家族がぶつかりあうシーンの演出に力が入りすぎていて、そのシーンのリアルさが作品のコメディタッチから浮いてしまっているのだ。このあたりが、ラナ監督らしいのだけれど、問題提起を主張する場面でついつい本気になってしまっているのだ。とりわけ、バイス・ガンダが家族に反論して延々と演説を繰り広げるシーンは、そこまで熱くならなくてもよかったのではと思えてしまう。本気でぶつかりあうからこそ、そのあとの和解で泣けてくるのだろうけれど、あまりにも本気でぶつかりあってしまうと、いささか痛ましさすら感じてしまうではないか。