【映画】ボルテスⅤ レガシー

 フィリピン映画『ボルテスⅤ レガシー』を観てきた。

 1977年に日本で作られたロボットアニメ「超電磁マシーン ボルテスⅤ」をフィリピンで実写化したもの。この「超電磁マシーン ボルテスⅤ」、かつてフィリピンで絶大な人気を誇ったアニメで、悪い貴族を倒すという展開を嫌ったマルコス政権が最後の4話分の放送を中止させたというほど国民が熱狂したアニメなのだ。当時、フィリピンでは毎日のように「マジンガーZ」「闘将ダイモス」といったロボットアニメが放送されていたのだけれど、その中でなぜ「ボルテスⅤ」だけが熱狂的に支持されたかというと、そこに家族愛というテーマが盛り込まれていたからなのだ。フィリピン映画を観ていると、そこには必ず家族のドラマが盛り込まれている。青春映画であろうが、ホラー映画であろうが、アクション映画であろうが、必ず家族間の葛藤のドラマが盛り込まれているのだ。家族愛を描く「ボルテスⅤ」は、そうしたフィリピン人の嗜好にみごとにマッチしたということなのだろう。
 かくして、再放送が繰り返され、日本語のまま歌われた主題歌もDNAに刷り込まれるほど浸透し、とうとう実写化にいたったというわけである。
 「ボルテスⅤ」がフィリピンでテレビドラマ化されるという情報に接したのは、もうだいぶ前のことになる。その後、忘れたころに俳優が決まったというニュースが流れて「おっ、この話はてっきり流れたものと思っていたけれど、本当に作るんだ」と思いはしたが、この時点ではそれほど注目はしていなかった。ところが、映像の一部が公開されたのを観てびっくりしてしまった。本気じゃん! めっちゃすごい映像になってるじゃん! テレビドラマでこのレベルの映像をやってしまうのか!
 ところが、それっきりフィリピンで放送が始まったというニュースに出会うことはなかった。さすがに撮影に時間がかかってしまったのだろうし、そこに新型コロナという災厄が襲いかかったため、予想以上に完成までに時間がかかってしまったらしい。
 そして、もうすぐテレビ放送が始まるという段階で、冒頭部分を劇場用に編集したバージョンがフィリピン全土の劇場で公開されたのである。それが、今回日本でも上映された『ボルテスⅤ レガシー』なのである。ただし、日本向けにあれこれ映像を追加したり、CGの完成度をあげたりしているらしいのだが。
 全80話を予定していたテレビドラマは熱狂的な支持のために10話を追加して全90話で完成した。オリジナルのアニメは全40話なので、倍以上のボリュームになっているが、おそらくは人間ドラマの部分に力を入れているのだろう。ちなみに、フィリピンではこの手のドラマは月曜日から金曜日まで毎日放送して、週末に1週間分の再放送があるので、90話というのは18週間分ということになり、4~5ヶ月で放送が完結することとなる。NHKの朝ドラのようなものなのだ。
 さて、そういう長い長い流れがあって、ようやく観ることができた『ボルテスⅤ レガシー』、予想以上の完成度だった。テレビ用の映像であるために、部分的に映画館のスクリーンで観るにはちょっと……という場面もあるにはあったけれど、ロボットバトルの映像は迫力たっぷりで映画館のスクリーンで観るにふさわしい仕上がりとなっている。また、原作のアニメに忠実な設定、ストーリーであるために、リアルではない部分もあるけれど、ヘタにそこをリアルな設定に改変しないところが本作のいいところなのだ。かつて、アニメ、マンガを実写化した作品がいろいろあるうち、本当に成功している作品というのは原作を変に改変していない作品なのではないだろうか。実写化するからには、原作にはないすごいことをやるぞ!などと妙に意気込んだ作品は、たいてい目も当てられない作品となっていることが多い。
 注目すべきは、やたらと熱量の高いバトルシーンだ。冷静になって考えてみれば、ロボットを操縦するのに操縦者が思いっきり動いたり、叫んだりする必要はない。ロボットが攻撃を受けるたびに、操縦する者がダメージを受けるのもおかしい。だけど、それをやるのがロボットアニメで、それを忠実に再現したのが『ボルテスⅤ レガシー』なのだ。そして、それゆえにバトルシーンがやたらとテンションの高いものとなる。ロボットを操縦しているのに、あたかも『ロッキー』を観ているかのような気分になってしまうのだ。このテンションの高さは『パシフィック・リム』にはない。
 さらに、天空剣で倒した相手に背を向けると、背後で壮絶な爆発が起き、V字型の炎が噴き上がる映像の嬉しさよ。「これだよ、これ、これが観たかったんだよ」という、お約束の映像に身震いしてしまう。
 もうひとつ興奮したのが、ボルテスⅤが初めて合体するシーン。よくぞテレビドラマでここまで精緻な合体シーンを作り上げたものと、映像にも興奮させられるが、そこにジュリー・アン・サン・ホセ(Julie Ann San Jose)の歌う日本語の主題歌「Voltes V No Uta」が流れるのだ。いい! 実にいい! 嫌が応にも気分が盛り上がる。
 というわけで、とにかく大満足、大興奮の映画となった。
 なお、パンフレットによると11月からTOKYO-MXでテレビ版の放送も始まるらしい。週1の放送だと延々と終わらないことになってしまうので、月曜から金曜までのオビ番組として放送してくれるのだろうか? いずれにしても、楽しみでならない。
 ちなみに、パンフレットは1500円といささかお高いのだけれど、厚紙のケースがつき、しかも角の部分を古びてすれたような印刷にするという、実に凝った作りとなっている。中身はむかしのアニメの話が多いというのは、フィリピン映画マニアとしてはやや物足りなく、フィリピンに関する情報をもっと入れて欲しかったところだけれど、一般の人はそこまでこだわりはないだろうな。