【読書】柴田直治『ルポ フィリピンの民主主義』岩波新書

 柴田直治『ルポ フィリピンの民主主義』岩波新書を読了。
 かつて、ピープルパワー革命で独裁者マルコスを追放し、民主的な政治を手に入れたはずのフィリピン。それがなぜ、ドゥテルテのような強権的な人物を大統領に選んだのか。そして、かつての暗黒時代の象徴ともいうべきマルコスの息子、ボンボンを大統領に選んだのか。なんとも理解しがたいその実態を、さまざまな角度から解説した1冊。
 それにしても圧巻なのは、ドゥテルテ時代の司法、行政、立法、警察などの腐敗ぶりだ。日本という国のあり方からは信じられないほどの事件が日常的に起きているというのに、それでいて最後までデゥテルテの支持率は落ちなかったのだという。
 そして、どうしてボンボン・マルコスが選挙に勝って大統領になれたのかという分析が非常にわかりやすい。なるほどと納得する。納得はできても、あの戒厳令の時代を生きていた人たちが実際にどう思っているのかは、いまいち伝わってこなかった。SNSに影響を受けやすい若い人たちや、マルコスの地盤となっているエリアで彼が支持されるのは理解できたとしても、身内を殺害された人たちだって多くいただろうに。
 個人的にはダリル・ヤップ監督の『メイド・イン・マラカニアン』『殉教者か殺人者か』の話が興味深かったのだけれど、ほんのちょっとしか触れられていなかったのは残念。まあ、そのあたりは本書のメインテーマではないので、仕方がないのだけれど。でも、外国で教育を受けた知識人であるダリル・ヤップが、どうしてあのような歴史修正をほどこしたマルコス礼賛の映画を作ったのかは、ぜひ知りたかった。
 あと、権威主義と民主主義の話なども興味深かった。民主的な選挙で選ばれたからといって、それが民主的な政権ではないという話には、「確かに」とうなずかざるを得ない。フィリピンに次ぐ世襲大国である日本の政治の情けなさを省みると、いまにフィリピンの轍を踏むのではと心配になってくる。