★天沢夏月『青の刀匠』ポプラ社

 天沢夏月『青の刀匠』ポプラ社を読了。


 火事で大やけどを負い、父が意識不明となった高校二年生のコテツは、遠縁の老婦のもとに身を寄せることになる。その女性は、日本で唯一の女性の刀鍛冶だった。顔の片側にヤケドを負ったコテツは、高校に戻ることができず、火にトラウマを持ちながら刀鍛冶の仕事を手伝うこととなる。いまの日本において殺傷力を持つ武器でもある刀を作ることにいかなる意味があるのか、その疑問を持ちながらも、徐々に刀に興味を持ち始めるコテツだったが……。

 メディアワークス文庫の『DOUBLES!! -ダブルス-』全5巻、角川文庫の『17歳のラリー』といったテニス小説を楽しんできた天沢夏月の最新作だ。これまでライトノベルの書き手として活躍してきた天沢夏月だけれど、前作『ヨンケイ!!』をポプラ社から出したのをきっかけに、もう少し上の世代をも視野に入れた作品を書き始めているということのようだ。とはいえ、本作もどちらかといえば若い読み手を対象とした青春小説と言えよう。僕のような年配の人間よりも、若い人が読んだ方がストレートに突き刺さってくるのではないだろうか。

 読んでいて実に読み応えがあったのは、刀鍛冶という仕事をとても丁寧に描いているということだ。表面的にどういう作業があってというようなことを描いているのではなく、刀鍛冶の内面にまで踏み込んでその作業を描いているのである。これは実に読み応えがあった。
 そして、学校から逃げ出し、前を向く気力を見失っていたコテツが、刀鍛冶の手伝いをしながら、さまざまな人間との出会いを通して、徐々に再生していく経緯がまたいい。

 天沢夏月、まだまだマイナーな作家ではあるのだけれど、応援していきたい書き手のひとりなのだ。