★樋口修吉『銀座ミモザ館』集英社

 主人公は昭和7年生まれの勇作。東京大空襲で家族を失った彼は、銀座の「クラブ・コブラ」という店でバーテンダー見習いとして働き始める。勇作のまわりには、店の女性経営者であるトニ、トニとは腐れ縁の江頭、トニの叔父の与四郎、そして店に出入りするあやしげな客たち、店で働く女性たちといった、ひと癖もふた癖もある人物がうごめき合う。
 やがて勇作は、経済界の大物をカモにするための与四郎の作戦に加わることになるのだが……。

 小説の背景として、昭和20年代の銀座の風物がとても魅力的に描かれている。
 そして、登場する人物のキャラクターがどれもこれも異彩を放っていて、その魅力でどんどん読まされてしまう。とりわけ、賭け事の達人とも言うべき何人かのキャラクターのカッコ良さは、実にもう圧倒的だ。
 しかし、そうした化け物のような人物に囲まれながらも、「自分はそのような生き方を選ばない」というラストの勇作の思いは深い余韻を残す。
 『銀座北ホテル』の続編ということなので、順番は逆になってしまうが、こちらも探して読んでみよう。