★香水 ある人殺しの物語

 パトリック・ジュースキント『香水 ある人殺しの物語』文春文庫を読了。


 なんとも奇妙きてれつな物語だ。ひたすら匂いに淫した小説で、ある意味、匂いを対象にしたエロ小説と呼んでもいいだろう。

 18世紀のパリを舞台に、人並み外れた嗅覚を持つ男の生涯を描いたもの。この男、匂いをかいだだけでその匂いを完全に分析することができ、視覚と同様に嗅覚だけでどこに何があるかまで把握できるのだ。その異様な能力のおかげでありとあらゆる香水を再現できるどころか、あとからあとから至高の香水を生み出すことすら可能なのだ。
 その男がとりつかれたのが、この上なく魅力的な芳香をはなつ処女の存在。その匂いを手に入れるために、男はある行動に乗り出すのだが……。

 いやあ、すごかった。あきれかえるほど変な小説だった。そして、その変な小説が全世界でベストセラーになり、日本でも訳者が「自分が翻訳した本のなかで例外的によく売れた」と書いているぐらいに売れたというのだから驚いてしまう。「匂いに淫したエロ小説」を喜んで読む読者がそんなにいるとは。そんな普遍的な魅力を持った小説とは思えないのだけれど。
 しかし、匂いフェチっぷりをあますところなく吐露した「訳者あとがき」を読むと、意外といるのかもしれない。

 映画化もされていて、映画の方もなかなかの怪作であるらしい。