
馳星周『ロスト・イン・ザ・ターフ』文藝春秋
競馬愛好者が集うバーを経営している葵は、ある日、競馬場のパドックでウララペツという芦毛の牡馬にひと目ぼれしてしまう。だが、戦績のパッとしないままウララペツは引退することになり、このままだと食肉にされてしまうと怯えた葵は、店の常連客を巻き込んでウララペツの馬主になることを決意する。名馬メジロマックイーンの血を引くウララペツを買い取って、種牡馬にしようと画策する葵。北海道の牧場はどこも、ウララペツを引き受ける余裕はなかったのだが……。
馳星周の競馬小説というと『黄金旅程』『フェスタ』『飛越』と、競走馬とそれを巡る人たちの葛藤を描いてどれもこれもめっちゃ面白かったのだけれど、本作はちょっとテイストが違う。レースシーンの描写はほとんどなし。競馬に魅せられた人々の悪戦苦闘をユーモラスに描いた小説で、競馬にまったく関係のないエピソードやら、主人公をめぐる恋のやりとり、そしてやたらとうまそうな食事のシーンに多くのページが割かれているのだ。こんなん、俺が読みたかった競馬小説じゃないぞ!と思いつつ、楽しく一気読みしてしまった。どちらかというと、『黄金旅程』『フェスタ』『飛越』の路線の小説をもっともっと読ませてくれと思うのだけれど、これはこれで楽しい。
それにしても、ウララペツが種付けする牝馬の名前が「リナホーン」で、仔馬の名前が「ウラリナ」には笑った。馳星周、「リナ」という名前がよほど好きなのだろう(笑)