【読書】青木冨貴子『アローン・アゲイン 最愛の夫ピート・ハミルをなくして』新潮社

 青木冨貴子アローン・アゲイン 最愛の夫ピート・ハミルをなくして』新潮社を読了。
 ピート・ハミルという作家をご存知だろうか? 日本では一般的に高倉健主演の映画『幸福の黄色いハンカチ』の原作者として知られているのかもしれない。しかし、自分にとってはまず『ニューヨーク・スケッチブック』の作者であった。ニューヨークを舞台にした小さな小さな物語を拾い集めたまさにスケッチブックのようなこの1冊で、僕はすっかりピート・ハミルのファンになった。その後、『ブルックリン物語』『ボクサー』『ニューヨーク・シティ・ストーリー』といった本を読んでいる。創元推理文庫から『マンハッタン・ブルース』にはじまるハードボイルドが何冊か出ているが、残念ながらこちらはいまいち好みにはあわなかった。
 本書は、そのピート・ハミルと結婚して、およそ30年をともに過ごし、最期を看取った青木冨貴子による回想録である。頼まれると嫌と言えずにどんな仕事をも引き受けてしまうピート・ハミルの多忙な日々が克明に描かれている。それと同時に、誰からも愛される人柄がこれ以上ないほどはっきりと伝わってくる。それゆえに、本書を読んでいる間、僕はずっとピート・ハミルとともにあった気がするし、病魔に冒されてからの描写にはまるで旧知の友人であるかのように心を痛め、彼が逝ってしまった場面では猛烈に寂しくなった。
 ピート・ハミルの交友の広さゆえ、驚くほど多くの著名人が本書には登場する。まさか、グレゴリー・ペックジェーン・フォンダまで登場してくるとは思わなかった。
 自分は一度だけ、ピート・ハミルに会ったことがある。新宿ゴールデン街の「深夜プラス1」にピート・ハミルが来たことがあるのだ。そのとき、あわてて近所の書店に駆け込んで買った本にサインをもらったはずだけれど、あれはなんという本だったか。大好きな『ニューヨーク・スケッチブック』ではなかった気がするのだけれど。
 そのとき、若い二人組のアメリカ人がフラリと店に入ってきた。日本で英語教師をしているというふたりだった。彼らに「ピート・ハミルって知ってる?」と聞くと「あたりまえだろ」と答えるので、「彼がピート・ハミルだよ」って教えると、「な、なんでピート・ハミルがこんなところに!」って驚愕していたけれど、そりゃびっくりするよね。
 あのとき、ピート・ハミルとどんな会話を交わしたのか、まるっきり記憶にないのだけれど、もしかすると本書の著者である青木冨貴子さんも同席されていたのだろうか? 申し訳ないけれど、そういう詳細はまるっきり覚えていないのだった。
 いま、改めて調べてみると、知らない間にけっこうピート・ハミルの翻訳があれこれ出ていることを知った。とりあえず青木冨貴子による『ガボものがたり : ハミル家の愛犬日記』はネットで見つけたので速攻で注文を入れたけれど、他の本も探求書の仲間入りをさせなければ。