【読書】金城一紀『SPEED』角川文庫

 金城一紀『SPEED』角川文庫を読了。
 ザ・ゾンビーズ・シリーズの第3弾。なんと16年ぶりの再読である。内容はまったく覚えていないのだけれど、読み出せばすぐに思い出すだろうと思ったら、なんとまあ、まったく思い出さない。完全に初読と同じ状態のまま、面白い面白い面白いとページを手繰って一気に読み終えてしまった。こんなに面白い小説なのに、どうして内容を覚えていなかったのだろう。以前に読んだ時にも、面白い面白い面白いと唸りながら読み終えたはずなのに。
 平凡な女子高校生の佳奈子は、大好きだった家庭教師の彩子さんの自殺を受け入れることができず、その理由を探ろうと動き出す。ところが、とたんに屈強な男子大学生数人に拉致されてしまうのだが、たまたまそこに居合わせた風変わりな男子高校生たちに助けられる。そして彼女は、その男子高校生たちの助力を得て、事件の背景にある許しがたいシステムに対して、完全と闘いを挑むのであった。
 南方や舜臣たちが手助けをするものの、『フライ,ダディ,フライ』同様、最終的に決断をくだして立ちふさがる問題に挑むのは事件の当事者である。そのため、佳奈子は車の運転を習い、ワンツーパンチの特訓をするのだ。そしてその過程で、佳奈子はそれまで生きてきた世界から一歩踏み出していくのだ。その一歩踏み出すドラマが、本作の最大の魅力といっていいだろう。
 相変わらずアギーの美貌っぷりは半端なく、佳奈子が何度も意識を失いそうになるのを必死に堪える場面が笑えるのだけれど、本作ではさらにアギーのママが登場してきて、これまたとんでもなく魅力的なママなのだ。そして、山下が相変わらずの山下なのにもたっぷり笑わされる。