東雅夫編『怪獣談 文豪怪獣作品集』平凡社ライブラリーを読了。
武田泰淳「「ゴジラ」の来る夜」、中村真一郎・福永武彦・堀田善衛「発光妖精とモスラ」、黒沼健「ラドンの誕生」、香山滋「S作品検討用台本(『獣人雪男』)」、福島正実「マタンゴ」、光瀬龍「マグラ!」など、怪獣を題材とする作品を収録している。
もっとも小説として面白く充実しているのは福島正実の「マタンゴ」。映画で有名な作品だけれど、この小説も面白い。とはいえ、これを怪獣小説と呼ぶかどうかは異論がありそう。ちなみに、本作が収録された雑誌「笑の泉」を持っているのはちょっと自慢だったりする。
香山滋の「S作品検討用台本(『獣人雪男』)」は、検討用台本といいながら、香山滋らしさの横溢した小説としてたっぷり楽しめる。
「ラドンの誕生」は、ヤフオクなどにたまに出ても値段が高すぎて手が出ず、いままで読むことができなかっただけに、今回読めたのは実に嬉しかった。もっとも、小説としての完成度は正直、いまひとつではあるのだけれど。
「発光妖精とモスラ」は3人の作家によるリレー小説だけれど、最後がかなりの駆け足になっているのはちと残念。
光瀬龍の「マグラ!」は、光瀬龍にしては雑な小説という印象。恐山から話が始まるのも不自然なら、途中で恋の鞘当てみたいな場面が展開されるのも違和感ありあり。海から現れた巨大怪獣が電撃放射で大暴れして都会を破壊していくというだけのシンプルな作品。「SFマガジン」に掲載されたときには「何でこんなものを書いたのか、とおおいに顰蹙を買った」とのこと。
「「ゴジラ」の来る夜」は、ゴジラという怪獣を題材にしてはいるものの、そこで扱われるのは象徴としてのゴジラであって、残念ながら怪獣小説としての魅力には欠ける。他の観点から読めば、それなりに面白い小説ではあるのだけれど。
というわけで、ひとくちに怪獣小説といっても、いろいろなタイプの小説が収められていて、出来不出来、好みにあうあわないはあるにしても、それを1冊にまとめて読めるというのはなかなか貴重な機会だろう。