金城一紀『フライ,ダディ,フライ』角川文庫を読了。
ザ・ゾンビーズ・シリーズの第2弾だが、時系列的には『レヴォリューションNo.3』より後の物語というわけではない。表題作の「レヴォリューションNo.3」よりも少し前の物語だ。
いたって平凡な47歳のサラリーマンの鈴木一。なんのとりえもない鈴木だったが、唯一誇れるのは家族、妻と娘に恵まれているということだった。ところが、その娘が暴力を振るわれて大けがを負ってしまう。相手は高校生ボクシングのチャンピオン。暴力沙汰には縁のない鈴木だったが、一度屈服してしまった屈辱、失ってしまった家族からの信頼ゆえに、刃物を手に復讐にむかう。だが、そこで出会ったのがザ・ゾンビーズのメンバーだった。南方たちは、鈴木の復讐を手伝うことにして、舜臣による鈴木の特訓が開始される。はたして、鈴木は高校生ボクシングチャンピオンを相手に勝利を手にして、おのれの誇りを、家族の信頼を取り戻すことができるのだろうか?
ザ・ゾンビーズ・シリーズの中でいちばん好きな作品だ。前に読んだのは2008年で、当然ながら細かい部分は記憶からきれいさっぱり消え失せていたけれど、この作品がめちゃくちゃ面白かったという記憶はこれっぽっちも薄れていなかった。そして、再読してその面白さを再び味わうことができた。
物語の骨幹は、一般人の主人公が格闘技の達人を前に一度は心を折られるのだが、優れた指導者に出会って厳しい特訓をほどこされ、最後には闘いを経ることでおのれを取り戻すという、実にシンプルなものである。よくある物語だ。ところが、そこにザ・ゾンビーズのメンバーが絡むことで、物語が鮮やかに輝き出す。
新作の『友が、消えた』ではザ・ゾンビーズのメンバーは南方のみが登場してきていたが、他のメンバーがその後、どうなっているのかが実に気になる。舜臣やアギーがどういう青年になっているのか、早く読ませてもらいたい。きっと、山下は相変わらず山下のままなのだろうけれど。