ロバート・E・ハワード『失われた者たちの谷』アトリエサードを読了。
サブタイトルは「ハワード怪奇傑作集」とあり、ハワードの多岐にわたるジャンルで書かれた怪奇小説8篇が収録されている。
「鳩は地獄から来る」は、ヴードゥー教の秘法によって作り出されたズヴェンビの棲む館を舞台にした恐怖小説。
「トム・モリノーの霊魂」は、壮絶なボクシングの試合に、過去のチャンピオンの亡霊が荷担する怪奇小説。
「失われた者たちの谷」は、2つの一族の対立を描く西部小説でありながら、洞窟の奥深くに棲息する死体蘇生術を操る〈いにしえの民〉の恐怖を描く恐怖小説。
「黒い海岸の住民」は、飛行機で無人島に漂着したカップルに、巨大な蟹のような一族が襲いかかる恐怖小説。
「墓所の怪事件」は、墓地の地下深くに広がる空間に潜む巨大な蛆虫のような一族に遭遇した男の恐怖を描く。
「暗黒の男」は、ヴァイキングに攫われた娘を救いに海に乗り出した戦士が、謎の神像をとりもどしにきたピクト人と遭遇する剣と魔法の物語。
「バーバラ・アレンへの愛ゆえに」は、馬の蹄に頭を蹴られた若者が、意識を失っている間に南北戦争で亡くなった祖父の兄の死を体験する、短いながらも印象に残るロマンティックな作品。
「影の王国」は、人間に化けて王国を乗っ取ろうとする蛇人間の陰謀に挑む蛮人の王の闘いを描く剣と魔法の物語。
実にバラエティに富んだ作品が並んでおり、「英雄コナン」につながる作品もあれば、西部小説とクロスオーバーしたホラー小説もあるし、ボクシングを題材にしたホラー小説もあるし、現代を舞台にしたクトゥルー神話めいた作品もある。一篇読み終わるたびに「次はどんな内容だろうか」と、すぐに次の作品にとりかからずにはいられない魅力のある世界。いずれもゾクゾクしながら読んでしまった。こういうアンソロジーならもっともっと読んでみたい。