榎本健一『喜劇こそわが命』栄光出版社を読了。
エノケンがとてつもなく人気のあったコメディアンだというのは知識としては知っていても、リアルタイムでは観ていないのでぜんぜん実感はできていなかった。自分にとってのエノケンとは、内藤陳さんのお師匠さんという位置づけの人物で、陳さんを通して聞く話で知っているという程度だった。
本書を読むと、なるほどすごい人気だったのだということがよくわかる。評伝ではなく自伝なので、その人気のほどが客観的に書かれているわけではないのだけれど、自伝を読むだけであちこちの劇場から引っ張りだこだったことがよくわかる。エノケンが出演するだけで、劇場に客が押し寄せてきたのだということが如実に伝わってくる。
そして、酒の上での失敗が失敗とみなされないようなおおらかな時代だったあたりのエピソードも実に面白い。凄いのは、酔っ払うと時速60キロ以上で走っている車の右側のドアから外に出て、車のうしろをまわって左側のドアから車内にもどるなんてことを平気でやっているということ。身が軽いコメディアンと聞いてはいたが、まるでバスター・キートンかジャッキー・チェンのようではないか。
むかしの浅草に集う芸人たちの熱気なども伝わってくる、たいそう面白い1冊だった。