不破有紀『はじめてのゾンビ生活』電撃文庫を読了。
タイトルからゾンビになったキャラクターを主人公にしたコミカルな作品かと思いきや、けっこうまっとうなSFでびっくりさせられる。ゾンビといっても、ホラー映画に出てくるゾンビとは違っていて、普通に日常生活を送っている。ただ、ゾンビの陽性反応が出ると、新鮮な水や食料を摂取することができず、腐ったものを好むようになり、肉体も腐って腐敗臭が出てくるので防腐処理が必要になったりする。しかも、肉体能力、知的能力が向上したりもする。
このゾンビが徐々に増えてきて、旧来の人類との軋轢が生じたり、月面や火星開発に乗り出し、やがて旧人類が滅亡に向かい、妊娠出産することのできない新人類(ゾンビ)も滅亡に向かうという約900年にわたる長い長い歴史を、短いエピソードの積み重ねで描いていく。これが時系列に沿って描かれているわけではなく、あっちの時代、こっちの時代へと行ったり来たりするので、最初のうちはいささか戸惑うが、読んでいくうちに徐々に徐々に歴史の全体像が見えてくる。しかも、タイトルからはまったく予想できなかったことに、この人類滅亡の物語が詩情たっぷりに描かれているのである。ここで自分が想起したのはレイ・ブラッドベリの『火星年代記』。なんと、『はじめてのゾンビ生活』というタイトルでありながら、共通するのはレイ・ブラッドベリの世界なのだ。いやあ、驚いた。