【映画】海底から来た女

 1959年の日活映画『海底から来た女』を観る。
 海辺の別荘で過ごすヨットと孤独を愛する青年、敏夫(川地民夫)。あるとき、敏夫は自分のヨットに見知らぬ女性(筑波久子)がいるのに遭遇する。泳いできて、勝手にヨットにあがりこんでいたと言うのである。その時から女性は、繰り返し敏夫の前に姿を現すようになるのだが、女性の正体は謎のままだった。
 そのころ、村では漁師の青年が海で行方不明になるという事件が起きていた。その青年の家では、三代にわたって海で事故にあっており、かつて浜に現れたつがいの鱶の片方を殺したため、残された鱶に祟られているのだと信じられていた。
 敏夫が別荘族の若者たちに誘われて登山に出かけた夜、敏夫の別荘に現れた女性は敏夫の兄とともにヨットで海にでかけるが、海が荒れ、誰も乗っていないヨットだけが戻ってきた。
 漁師たちは、その女性こそが鱶の化身であると信じ、敏夫が取り憑かれているのだと忠告するのだが、敏夫はいっこうに信じようとはしなかった。しかし、自分たちが祟られていると信じる漁師たちは、その謎の女性を罠にかけて殺そうとするのだった……。

 石原慎太郎原作のホラー映画ということで観てみたのだけれど、なかなか面白かった。筑波久子演じる謎の女性は、清純かつ奔放で情欲的といった曰く言い難い魅力をはなっており、あたかも香山滋の小説に出てくるキャラクターのようで、実にいい。こういうキャラが出てくると、このヒロインが何を考えているのかとか、物語の整合性とか、そういうことはどうでもよくなってしまう。鱶の化身と呼ばれるこのミステリアスな女性の存在感をしっかり描いてくれれば、それでいいと思えてしまうのだ。
 それにしても、この筑波久子のフィルモグラフィを見て、びっくりしてしまった。1957年に『復讐は誰がやる』で映画デビューしたかと思うと、同年に8本の映画に出て、1958年には9本、1959年には本作を含めて11本の映画に出ているのである。1962年にはなんと16本もの映画に出ているではありませんか。
 肉体派女優と呼ばれて映画に出まくっていたのだけれど、突如芸能界を引退して渡米して、ロジャー・コーマンのもとでジョー・ダンテ監督の『ピラニア』、ジェームズ・キャメロン監督の『殺人魚フライングキラー』をプロデュースって、凄すぎる。
 まあ、そういった筑波久子のプロフィールは別にしても、この『海底から来た女』、なかなか雰囲気もあって、妙に理に落ちる脚本にもなっておらず、意外な拾いものなのでありました。