ジョー・R・ランズデール『ババ・ホ・テップ』ハヤカワ文庫HMを読了。
1988年以降に書かれたランズデールの短篇を集めた一冊で、ホラーからミステリーからエッセイまで、実に幅広い作品が収録されている。短篇といいつつ、中編と読んでもいいような長さの作品もあるのだけれど、あっさりした作品から濃厚な作品まで、バラエティに富んでいてランズデールの魅力をたっぷりと堪能できる。
個人的なお気に入りは「ステッピン・アウト、一九六八年の夏」。友人のアルコールをすりこんだ髪の毛に火が燃え移ったあとのたたみかけるような展開には爆笑してしまった。「ハーレクィン・ロマンスに挟まっていたヌード・ピンナップ」のクライマックスで、命がけの闘いをしている最中に、何匹ものプードルが足元を走り回る描写もそうだけれど、こういうドタバタを描くのが実にうまい。かと思うと「案山子」はシンプル&ストレートなホラーで「おおっ、こういうのも書くんだ!」と思うし、表題作「ババ・ホ・テップ」の下品で冗舌な描写は「これぞランズデール」といったおもむきだし、なんとも楽しい。
そして、ハップ&レナードシリーズの短篇が2本収録されているのも嬉しいかぎり。このハップ&レナードシリーズは、今年になってからも新作が出ている息の長いシリーズなのだけれど、日本では第1作が翻訳されないまま角川文庫から5作が訳されただけというのが実に残念。最後に出た『テキサスの懲りない面々』は2001年の作品で、その後、長編だけでも7作が書かれているのだけれど。いまさらどこも訳してはくれないんだろうな。
あと読んでいない邦訳のあるランズデールの作品は、『テキサス・ナイトランナーズ』『アイスマン』『ダークライン』の3冊らしい。たぶん、手近なところに埋もれていると思うので、掘り出して読まなければ。