【読書】阿部暁子『カフネ』講談社

 阿部暁子『カフネ』講談社を読了。
 法務局に勤める野宮薫子。結婚をしていた相手からは離婚を突きつけられ、溺愛していた弟が急死したためにアルコールに逃げ込み、投げやりな日々を送っていた。だが、弟が遺言書に遺した指示を執行するために弟の元婚約者である小野寺せつなに会い、やがて彼女が勤める家事代行サービス会社「カフネ」の活動を手伝うことに。そして、せつなと行動をともにすることで、薫子もようやく立ち直るのだが……。
 最初、薫子とせつなが登場してきたとき、このキャラクターには共感できないなと思った。薫子は部屋にゴミを溜め込んでアルコールに溺れているし、せつなは婚約者の親に会っても非常識きわまりない(と思えてしまう)言動をとるし。だけど、読んでいくうちに、薫子の切なさ、痛み、せつなの見かけとは異なる繊細さが伝わってきて、いつの間にか彼女らの行動のひとつひとつに一喜一憂してしまうようになってしまう。みんないろいろなことを背負いながら、それでも一生懸命に生きているんだ、いろいろ大変なのは自分だけではないんだという、当たり前のことなんだけど、つい忘れてしまいそうになる大切なことを、あらためて思い出させてくれる小説だった。
 なお、本書には小説の中に登場する料理のレシピ小冊子がついているのだけれど、致命的なまでに料理に縁のない自分には、まったく手が出ないのが実に悔しいところ。