馬伯庸『両京十五日』ハヤカワミステリを読了。
明朝の中国を舞台に、期限内に南京から北京に辿り着かなければならないのだが、そこに幾多の困難、妨害が立ちふさがるという『深夜プラス1』タイプの冒険小説。向かう一行は、命を狙われている皇太子、頭は切れるが世に出ることを捨てて酒浸りとなっていた捕吏、才気に満ちてはいるが生真面目で融通の利かない下級役人、なにやら秘密を抱えている優秀な女医の4人。立ちふさがるは、政府転覆を狙う一派に白蓮教徒!
いやあ、面白い。翻訳小説とは思えないほど文章がこなれていて、すいすいと読めてしまう。登場人物のキャラも立ちまくり。しかも、文章がやたらと映像的で、まるで映画……というよりもアニメを観ているように楽しめてしまう。明朝時代の中国のことなら、香港映画で観た知識しかなかったので、ある意味、中華的な世界を舞台にした異世界ファンタジーを読んでいるような気分にすらなってしまう。
ただし、上巻は一気読みだったのだけれど、下巻に来てこちらが息切れしてしまい、読み終えるのにやたらと時間がかかってしまった。下巻に入ったところでちょっと物語の動きが少なくなり、やや中だるみしたということもあるけれど、これだけ長いと、さすがに読む方にも体力が要求されてしまう。
それにしても、呉定縁が北京紫禁城に乗り込んでからの大胆な行動は、さすがに予想の遥か上を行っていて、思わずのけぞってしまった。絶体絶命の窮地に追い詰められてからの思いもよらない方法での大逆転ホームランをかましてくれるのだ。いやあ、これぞ冒険小説の醍醐味だよ。
しかし、すべてが終わったというのに、まだ残りページがけっこうあって、なんだこれは?と思っていると、そこでさらにまたひと山あるという! そこまでの展開だけで十分に満腹だというのに、さらにおいしいおいしいデザートが用意されているのだ。どこまでサービスすれば満足するんだ、この作者は。
内藤陳が平伏し、北上次郎が早くも今年のベストワンと断言するレベルの冒険小説の傑作といっていいだろう。