【映画】メイド 冥土

 シンガポールのホラー映画『メイド 冥土』を観る。
 フィリピンからメイドとしてシンガポールにやってきたローサ(アレッサンドラ・デ・ロッシ/Alessandra de Rossi)。雇い主は、中国系のテオ夫妻で、家には脳に障害を持つひとり息子のアスーンがいた。
 言葉も習慣も異なる異国での生活をはじめるローサだったが、時は太陰暦の七月、「鬼月」と呼ばれるこの時期は、地獄の門が開き、死者の霊が人間界にやってきて悪さをすると信じられている。そのため、街のいたるところで、先祖の霊を慰めるために「冥銭」が燃やされていた。中国の風習を知らないローサは、燃やされた「冥銭」の灰に足を踏み入れてしまい、それから繰り返し幽霊が目の前に現れるようになってしまう。途切れなく続く恐怖の体験に疲弊していくローサだが、言葉が通じるのは英語が使えるテオ夫妻のみで、夫妻は「無視していれば悪さをすることはない。7月が終わるまでだ」と言うばかり。
 だが、恐怖体験はさらに続く。そして、テオ家にはローサの前に別のフィリピン人のメイドがいて、ある日、姿を消してしまったのだということが判明する。そして……。
 これは、なかなかに怖かった。フィリピンのアレッサンドラ・デ・ロッシが主演ということで手を出したのだけれど、完全に孤立した状態での終わることのない恐怖体験という状況の怖さが、ひしひしと伝わってくる。そして、監督ケルヴィン・トンの演出がうまい。夢の中での恐怖体験と、現実での恐怖体験とが、渾然一体となってローサに襲いかかっていく、その混ぜ合わせ方が実に絶妙なのだ。
 主演のアレッサンドラ・デ・ロッシは、数多くの主演作のあるフィリピンの女優で、代表作は北海道ロケをおこなった『キタキタ』ということになろう。また、『僕のアマンダ』では監督業にも進出している。本作は2005年制作の作品なので、1984年生まれの彼女がまだ21歳のときの作品だ。最近のフィリピン映画での彼女しか知らないために、大人の女優という印象しか持っていなかった。こうして、若い頃の彼女の姿を観ることができたのは自分にとっては実に貴重な機会だった。