★イップ・マン 立志

 『イップ・マン 立志』を観る。原題は「葉問宗師覚醒」。


 ドニー・イェンの『イップ・マン』のヒットを受けて、中国でもその柳の下のドジョウを狙ったパチモン映画が量産されているようで、続々とレンタルビデオショップに「イップ・マン系列」のソフトが並んでいる。だけど、はっきりいって中国産の武術映画は、アクション演出がいまいちな作品が多く、あまり観る気がおきないでいた。
 が、本作はシェー・ミャオ(謝苗)が主演ということもあって、観てみることにした。シェー・ミャオといってもピンとこない人が多いかも知れないが、『新・少林寺伝説』(1994)や『D&D 完全黙秘』(1996)といった作品で絶頂期のジェット・リーの息子役を演じていた、あのチビッコなのである。あの小僧がいまや立派なアクション俳優となって活躍しているのだ。ちょっととぼけたような風貌の彼が、どういうイップ・マンを演じているのか、気になるではないか。
 で、実際に観てみて、あなどっていて悪かったと、素直に謝りたい。中国の武術映画にも、きっちりした作品があったではありませんか。そう、真っ当な武術映画として、見ごたえのある作品に仕上がっていたのである。
 舞台は香港。香港に留学で来ていたイップ・マンは、仏山で一緒だったボーフォンと再会し旧交を温める。が、若い女性たちがイギリス人率いるギャングたちに誘拐される場面に遭遇し、引き留めるボーフォンを振り切ってギャングどもを叩きのめす。だが、そのことによってボーフォンたちは報復にあい、ボーフォンの妹も攫われてしまう。その背後にいたのは、香港の若い女性をヨーロッパに売り飛ばしているイギリス人の犯罪組織であった。イップ・マンは、ボーフォンの妹を救うために、バーティツの使い手を相手の闘いに挑むことになるのだが……。

 若い女性が攫われてヨーロッパに売り飛ばされているという設定は『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ 天地大乱』でも扱われていたし、広場に設置された舞台の上で決闘をするという設定は『イップ・マン』など多くの武術映画で観てきているし、西洋人vs中国人のバトルという設定も繰り返し観てきた。そういう武術映画のおいしい要素が数多く取り入れられている。
 そして、格闘シーンでのシェー・ミャオの動きが実にいい。ドニー・イェンの『イップ・マン』で観なれた詠春拳の動きが、きっちり再現されているのである。このアクション演出、細かい動作などの組み立てがとても見事で、本当に見ごたえのある格闘シーンとなっているのだ。
 ちなみに、ここで出てくるイギリス人が使うバーティツという武術だけれど、もしかしてこれってシャーロック・ホームズにでてくるバリツのこと?と思ったら、本作のホームページにこう書いてあった。
「イギリスで生まれた格闘技バーティツは、ボクシングや柔術などを組み合わせて誕生した格闘技で、かのシャーロック・ホームズもその使い手として知られている。詠春拳との異種格闘技戦は、その規模とロケーションも相まって手に汗握る仕上がりとなっている。」
 おおっ、やっぱりバリツのことだ!

 監督は李希傑(リー・シージェ)&張著麟(ジャン・ジェアリン)。このあたりの映画人については疎いのでぜんぜん知らない二人組なのだけれど、この二人が組んでシェー・ミャオ主演で撮った『少林寺 十八の羅漢』という作品があるらしいので、これも観てみなければ。